出会いの物語
出会いの物語
あれから9年の月日が流れた……。



ほら、ぴーちゃんたち。
ご飯だよ。


天気のよい昼下がり、ボクは大学の中庭のベンチにいた。



ぴっ!(うまうま)


ボクは姉の大学に進学し、卒業後も大学院に進んだ。



うまいか?
よかったな。


ピーちゃんの好物はマグロだ。
ボクは切り落としの冷凍マグロを散歩の時にあげている。
でも、ピーちゃんにだけあげているわけではない。



ぴぃ~。(ボクんだぞ~)





ピー(ボクの~)





ぴぃ~(取られた~)





こらこら、喧嘩しない。
にーちゃん。お兄ちゃんだろ。
フォーちゃんもナナの取らない。


栄井さんには「あんまり食糧はやらないように」と言われているんだけど……。



ぴっ(おいしいね)。


こう言われちゃうと、やっぱりあげたくなってしまう。



あはは。
こらこら。


お天気の良い日に、こうやって中庭でピーちゃんたちと戯れるのが、ボクの唯一の癒しだ……。



あれ?
くぅちゃん。どこだ?





くー。





あ、いたいた。


くぅちゃんはベンチに下に隠れていた。



そんなところにいると食いっぱぐれるぞ。


くぅちゃんに大き目のマグロをやろうとした。



ぴっ(すちゃっ)





あ……。





ロクちゃん、ダメだよ。
キミはいっぱい食べてるだろ。





ぴ(いいんだよ。どうせ、ボクなんて……)。





ほら、くーちゃんがしょげちゃったじゃないか。もう、どうしてキミたちは弟たちを大事にしないんだ?





ボクのお姉ちゃんを見習いなさい。今もボクのこと大事にしてくれるんだからね。


姉も大学に残っていた。
麻里亜さんも栄井さんもいる。
9年前は4人だった同好会も、大きな組織になってしまっていた……。



あれはあれで、面白かったな……。


みんなで試行錯誤して、難問にぶち当たっても、いっぱい考えて改良した。
ボクは麻里亜さんと栄井さんに弟子入り? して、ロボット工学を専攻していた。
タイムマシンは完成間近で、ピーちゃんたちはそのサポートAIとして開発されている。
ボクはピーちゃんたちの改良とメンテナンスをしていた。
ピーちゃんたちは全部で10羽。
類似品も出てるけど、手塩にかけて作ったスペシャルな子たちはこれだけ。
ピーちゃんの本名はPeeOne。
他の子たちも、Peeの後に数字がついているけれど、それだと味気ないから、ボクは違う呼び方をしていた。
付いている数字をちょっと変えているだけだけど……。
でも、その方が、みんな嬉しそうに返事をしてくれるし。



ぷるるるる


ピーちゃんの通信機能が作動した。



はい


ボクの声に反応する。



悠真、そろそろ戻ってきてくれ。最終調整を行う。撮影に特化しているPee3は忘れずに持ってきてくれ。


諸悪の根源、吉良先輩……。
彼は、相変わらずボクたちの司令塔だ……。



誰も置いてかないよ。
全員ちゃんと連れて行くし。





早く来いよ。


一方的に通話が切れた。



もう……。





ふぅ……。


9年前、吉良先輩はボクに、



何かあったら脳みそフル回転して助けてやるから。


と言ったのに、助けてくれたのはピーちゃんだった……。



やっぱり、ボクはお姉ちゃんのオマケなのかな……。





ぴぴ(どうしたの?)





9年前、ピーちゃんが助けてくれたなって、思い出しただけだよ。





…………。


ピーちゃんが、ボクの肩に乗った。



ぴぴ(9年前の話なんだけど……)





うん。何?





ぴぴぴ(あの時、吉良さんはとっても古い、封印していたタイムマシンを使おうとしていたんだ)





え?





ぴぴぴぴぴー(そのタイムマシンは、誰が作ったのかも、何のために作られたのかも明確にはわかっていなくて……)





ぴーぴぴぴー(使用は危険だってことで封印されていたんだ)





ぴっぴぴぴ(吉良さんは、悠真くんが帰ってこなかったら、それを使って自分で悠真くんを助けるつもりでいたんだ)





そんな……、だって、ボクはピーちゃんに助けられたのに……。





ぴっぴぴぴ(悠真くんが、がんばってボクをしっかり抱きしめていてくれたからだよ)





ぴっぴぴぴ(ボクは亜光速で飛んでただけだから)


……すごいよね。
それ、とってもすごいことだよね……。
その外見で亜光速いけるんだから……。



ぴぴぴぴぴー(確かにボクは悠真くんを助けたよ。でも、同時に吉良さんのことも助けたって思ってるんだ)





……。





ぴっぴーぴっ(悠真くんのために、危険を冒そうとしていた吉良さんも助けることができたんだって)





ピーちゃん……。





ぴぴぴ(もうすぐお義兄さんになる人なんだし)


そうだった……。



記憶から消したかったんだけど……。


吉良先輩と姉は婚約をして、姉はなぜか結婚指輪をしていた。



まだ結婚してないのに……。





Xデーに備えてだ。





って言ってたけど、お姉ちゃんを独占したいだけだよね……。


ボクのお姉ちゃんなのに……。



ふぅ……。


でも、ちょっとだけ、ピーちゃんの話は嬉しかったかもしれない。



ありがとう、ピーちゃん。





ぴっぴー(いえいえ、どういたしまして)





捨て身で助けてくれるつもりだったっていうのがわかったくらいで、今までのイメージが変わるわけじゃないけどね。


そういう人だっていうのは、はじめからわかっていたのかもしれない。



ボクの大事なお姉ちゃんの旦那さんになる人だし……。





かなりヘンな人だけどね……。


ボクは他のピーちゃんたちの方を向いた。



ほら、みんな。休憩時間は終わりだって。戻るよ。





ぴ~(嫌だよぉ~)





ぴーぴっ(そんな聞き分けのないこと言っちゃダメだよ)





ぴっぴっ(お前はいい子ちゃん面してればいいんだからいいよな)





ぴー(そうだそうだ)





ぴ(まあまあ)





ぴーぴ!(お前は戻れば仕事があるからいいけどさ)





ぴー!(そうだそうだ!)





……。





ボクも戻りたくないよ。みんなと一緒に、ここにいたいけど……。





でも、あの極悪非道な男から連絡が来ちゃったからさ。行かなきゃ。





ぴっぴっぴっぴ!(悠真くんをあの悪魔から守るために。ボクたちは戻らないといけない!)





ぴっぴ(それなら致し方あるまい)





ぴー(そうだね)





ぴっぴっぴっぴ(うん。うん。うん。うん)





ありがとう、みんな。
一緒にがんばろうね。





ぴー(はーい)


ボクは近くに置いた、お気に入りのパーカーを着た。



ホント、人使い荒いんだから。


フードをかぶるとホッとする……。
最近はストレスのためか、頭からすっぽりかぶるようになってしまっていた……。



今の、鳥使いだったの?


「鳥使い」は、ボクに付いてしまった称号だ……。
いつも鳥を従えているからという理由らしい。



従えているわけじゃないんだけど……。


ピーちゃんたちは、ボクの同志だ。



鳥が周囲にいるからおかしいなって思ってたんだけど……。





お……、王子って呼んでいい?





鳥王子……。





鳥王子……。





聞こえてるんだけど……。





なんだよ……。
鳥王子って……。





鳥使いって言ったり鳥王子って言ったり……。めんどくせー。





さんちゃんおいで。





ぴっ(はいっ)


飛んできたさんちゃんをだっこした。



あの吉良先輩のことだから、とてつもなく過酷な環境に置かれるかもしれない。





でも、どんな状態になっても、ボクが絶対に直すからね。





ぴっぴ(気を付けて行っておいで)





ぴーぴっぴー(やだなあ。二人とも、なに深刻な顔しているの?)





ぴっぴぴっぴー(大丈夫、大丈夫。なんとかなるよ)





あの吉良先輩なんだから、そんな楽天的に考えていたらダメだよ。





ぴ?(そうなの?)





でもね、恐ろしい目に遭っても、ボクたちがついていること、忘れないで。





ぴっぴー(何の役にも立たないけど、気持ちはいつも一緒だよ)





ごめんね、ボクが不甲斐ないばっかりに……。





ぴっぴぴぴー(そんなことないよ。悠真くんは、ボクたちの希望の光だよ)。





はっちゃん……。





ぴっぴw(悠真くんは、ボクたちをいつも大事にしてくれるもの)





ぴぴ(うんうん)





みんな……。
ありがとう……。





あれがなければなー。





うん。


現在、彼女いない歴、更新中……。
でも、いいんだ。



これは、ボクとピーちゃんの
出会いの物語だ……。





ぴ(ちがうよ)





ピーちゃん?





悠真くんと、ボクたちの
出会いの物語だよ。





そっか、そうだね。うん。
みんなとの出会いだね。





ぴ……(違うよね)





ぴぴぴ……(タイムマシンなんだけど……)。





ぴっぴっぴ(ま、いっか)。





ボクたちは、悠真くんと一緒にいられて、一緒に成長できて、とっても幸せだよ。


おわり
