とりあえず、呼びだされた場所に俺達は向かうことにした。
ただその“アルカドの泉”の泉って何処なんだろう、と俺は思った。
とりあえず、呼びだされた場所に俺達は向かうことにした。
ただその“アルカドの泉”の泉って何処なんだろう、と俺は思った。



フィリアは場所を知っているか?





知らないわね。
でも指定してきたということは、そこそこ知られている場所なんじゃないかしら





となると、ここの温泉宿の人に聞いたほうが良いのかな?


というわけで、入口付近にいる宿の店主に話を聞くことに。
だが、場所を告げると彼は、



“アルカドの泉”!?
あの周辺は最近魔物がでるというぞ?





そうなのですか?





ああ。
しかも変な盗賊とは違う輩が住み着いていて、得体のしれない怪物に襲われたとか


どうやらその“ノーネイム・クラスタ”という人物たちがそこを根城にして何かをしているらしい。
しかも見たこともないような怪物を連れているそうだ。



レイトとマリーの二人だと荷が重い……かな?





そうね。
とりあえずは急ぎましょうか。
場所を教えていただけますか?





お嬢ちゃん達が行くのかい?
悪いことは言わないから、やめたほうが良い


そんな宿の主に俺は、



実はその場所に友人が遊びに行ってしまって、今追いかければ止められるかもしれないんです





! そうなのか!
だったら話は早い。
この目の前の通りをこう行ってこう行ってこの道を……


この宿の主は親切に説明してくれた。
嘘をついて道を教えてもらったので気がひけるけれど、そうでもしないと教えて貰えそうになかったので仕方がない。
そこで宿の主にお礼を言って俺達はかけ出す。
そして外に出るとすぐに俺は、フィリアに襟首を掴まれて、



さーて、直線距離で移動だから早いわよぅ。
夕方になる前についちゃうかも





あのー、こんな風に襟首を掴まれて移動させられるより箒の後ろに乗せてください。
切実に


あの空中浮遊は怖い。
高所恐怖症というわけではないが、俺だって、眼下に広がる雄大な自然や建物を見ていると意識が遠のいてくる。
しかもそんな俺を掴んでいるのはフィリアの細腕なのだ。



……意外に怪力だよな





魔法で強化しているからね。
でもそうね、後ろに乗せてあげたらデートっぽいかしら





……





腰のあたりに手を回してね。
そこより上に触れでもしたら……責任とってもらうわよ





はい!


俺は元気よく答えた。
何だか本当にフィリアは苦手なのだ。
確かにこうやって手伝ってくれるし、あのドSぽい発言さえなければ見た目は好みだ。
でも苦手なのでフィリアはない気がする。
そう思いながら腰に手を回して抱きつくと、意外に細い気がする。
こう見えても見かけだけは繊細な女の子なのだろうか、と考えて……よし、これ以上考えるのは止めだと思った。
そこでフィリアから妙な魔力を感じる。
きっと予知の力を使ったのだろうと俺が思っていると、



大丈夫みたいね。
うん、予想通りの光景だわ





そうなのですか?





ええ……“天使族”の名前は伊達じゃないわ


楽しそうにフィリアの言葉に、レイトは大丈夫だろうかと俺は思ったのだった。
森の一角にある泉の周りには、大昔に祭壇があったらしく石の柱などが立っていた。
そしてその泉の周りには、堂々たる少女の姿が一人。



この私にひれ伏しなさい、愚民ども!
私に逆らった罪を、くいなさい!





「「「はい、マリー様!」」」


といった、仁王立ちするマリーの周りには男女がひれ伏している。
どんな状況だこれ、という気が俺にはしないでもなかったが、すぐ側で呆然としているレイトの方が気になって近づく。



おい、レイト、大丈夫か?


とりあえずは正気に戻すために肩を揺さぶると、レイトがハッとしたように俺を見て、



……ユニか





まだぼんやりしているみたいだが、大丈夫か?





いや、ここに真っ先に人質に連れてこられたと思ったら、マリーが……うん、どこかで清楚な可愛い子がいると思うからその子を求めてさまようことにしよう





どうしたんだレイト





いや、現実って厳しいなと


ぼんやりとマリーの方を見て、レイトがそんなことを言う。
だが俺はこれは機会だと思ったのだ。
このレイトは俺を裏切りフィリアと恋人同士になれ等と申していたが、これで俺の気持ちも分かっていてくれただろう。なおで、



では、俺と一緒に清楚でおとなしい女の子を探しに行こう!





いや、それとこれは、話が別だ。
ユニにはあのフィリアという女とくっついてもらう





く、やはりお前はそういうのか





当たり前だ。
そもそもだな、何だかんだ言って、ユニ、お前にフィリアは優しいと思うぞ?
しばらく見ていた感じでは





! それは、そうだけど……





しかも恋人にって提示してくれているんだから、ちょっとくらいお付き合いしてみたらどうだ?





う、うぐ、でも、恋人ってもう少し……“甘い”ものなんじゃないのか?





ふ、夢見がちだな





レ、レイト。
お前はどうなんだ、さっきは清楚な女の子がと言っていたくせに!





僕は別なのだよ。
自分のことは棚に上げる主義なのでね。
くくくく


とレイトは言い出した。
とりあえずは裏切り者な友人は元気になったらしいと俺が思っているとそこで、



全く面倒な……“天使族”が


そんな声が聞こえて、突然俺達に向かって何者かが魔法を打ってくる。
油断したのかもしれない。
その風の魔法が、鋭い刃となって俺達に迫る。
だが動けない俺の目の前にフィリアの姿が広がって。
赤い血が見えた。



「……」


フィリアは笑っていて、俺は血の気が引く。
もっと気をつけなければならなかった。
どこかで頭が冷たく冷えて、冷静に動き出して……だからそっと倒れこむフィリアの体を抱きしめるようにして、“力”を使った。
ユニコーンの力は、“癒し”だと言われている。
でも本当は、少し違うのだ。
抱きとめたフィリアが腕の中で、先程まで動いていたのと何も変わらない状態になる。



凄いわね、ユニコーンの力って





……そうだな。
今はじめてこの力があってよかったと思ったよ。
レイトは大丈夫か?





ああ。
以前ユニの血をもらっていたからその効果で、腕を一本やられたけれど治した


そういえば、レイトにはそんな力が有ると聞かされたのだ。
うん、良かったと思って、周りの人達を見て、どうやら俺達を狙って攻撃してきたようだと知る。
マリー達は無事のようだから、後は、と思って俺は……攻撃魔法の飛んできた場所を、静かに見つめたのだった。
