遠くで私を呼ぶ声がする。



里沙……里沙…………


遠くで私を呼ぶ声がする。



里沙、次は何して遊ぶ?





この前の本の続き読んでよ





里沙……猫がいる


ああ、そうだ。
これは……昔の私の記憶だ。
みんな……。
そっか、みんなあれは現実だったんだ、私の夢だと思ってた。
夢じゃなかったんだ……。
夢じゃなかっ……た。
目を開けるとオレンジ色の光が見える。
ぼんやりとした頭の中で、この状況が未だ理解出来ない私は目だけ動かして辺りを探る。
知らない場所だ。



…………ここは?


私は起き上がり、もう一度辺りをきょろきろょろした。
不思議な部屋。



やっほ~、お目覚め?


声の方を振り向くと、一之臣さんとデートしている時に会ったあの男の人がいた。
そうだ、私この人たちに捕まって……



紅茶でもいかが~?


そう言うと目の前のテーブルに置かれたティーカップに、琥珀色の飲み物が注がれる。



良い香り……





おい女、いつまで床に座っているんだ……


二之継さんと行った図書館で会った人。
相変わらず無愛想。
だけど床に座り込む私の手を引いて起こし、テーブルの前の椅子に座らせてくれた。



乱暴な事して悪かったな……





ほんと、ごめんね~


二人は反省している様子で私に謝罪してきた。
そこへ──



お~い、団子買って来たぞ~





やったね~
どれにしよっかな~





オレは、みたらししか食わん……





おいっ、こういう時は女に譲れよ!
ほら、どれがいい?





……へっ?





ほら!


差し出された美味しそうなお団子、私はきなこと黒蜜がたっぷりかかったお団子をとりあえず選んだ。



私……誘拐されたんじゃなかったけ?





うん、やっぱり紅茶はアールグレイがいいね





みたらし……美味い





は~……
落ち着くな~……


さながらみんなティータイムといった感じだ。
私も釣られてモグモグとお団子を食べ、紅茶で飲み干した。
お茶はすっきりとした味わいのアールグレイ、それに甘~い黒蜜ときなこのお団子。
お団子と紅茶、合わなくは無い。



まだ団子あるぞ!
食えよ





お茶もあるよ~





……みたらし、一本ならやるぞ……





あっ、はい、どうも……


いやいやいや!
私ここにお茶しに来たワケじゃない!!



あっ、あの~……
みなさんはどうして私をここに?





あ~っ、それね~





こうでもしないとヤツらが来ないからな……





……クソ眼鏡め……オレを無視しやがって……





君を連れて来たのは、狐くんたちをおびき出す為だよ~


何か一之臣さんたちと確執があるとか?
そういえば確か、この人たち七福神って言ってたけど……。



そういえば、七福神なら
あとの四人はどうしたんですか?





あ? あぁ~……
稲荷と因縁があるのは
七福神でオレ達三人だけだからな





そうそう





……稲荷はオレたち三人のライバルだ……永遠の





ライバル?


お稲荷様と七福神がライバル?
どういう事?
イマイチ理解していない私の顔を見て、三人は顔を見合わせると、私の方を見て話し始める。



御利益ってわかる?





神社とかのですか……?





そうだ……御利益は神が人に与えられる恵み……





まぁ、アピールポイントだ!


意識した事なかったけど、神様それぞれの『売り』みたいなものなのだろう。



それが何か関係が?





大有りだ! 大有りっ!





稲荷の有名な御利益は……商売繁盛・五穀豊穣・金運・財運……
僕、恵比寿の御利益は五穀豊穣……





オレ……大黒の御利益は……金運・財運……





そしてオレ様、布袋の御利益は商売繁盛だ!


という事は……



つまり……被ってると……





ご名答~!





毎年、初詣はどちらがお賽銭多いとか……
どっちのお守りが売れたとかで競い合い……





稲荷に参拝した子が、こっちでおみくじ引くって時は凶とか出してあげたり~





神世では七福神としてバンドを組み、アイドル化している稲荷とその人気を二分している
この前の巨大宝船・船上ライブは大成功だった!





バンド……宝船でライブ……


なんか、私のイメージと全く違う。
七福神って、もっと太ったおじいさんで袋とか持ってるのじゃなかったんだ。



なんか……イメージと大分違いますね……
七福神ってもっとおじいさんとかでひげ生えてて、大きな袋とか小槌とか持って……





それは、ウチのじい様たちだ!
オレらはその孫!!





ああ……なるほど……





だがしかし
全く稲荷はオレらを相手にせんのだ!





いつも無視……





だっから~、こうして人質までとってみたってワケ~





来たか!


その時──
突然、花火の様な爆発音と地響きがした。
と、同時に白い煙幕が部屋に立ちこめていく。



おいっ、オマエら花嫁を返しにもらいに来たぞ!





……だからと言って壁を壊す必要は無いのでは?





いや、だってこういうのは派手な方がいいだろ!?





もし里沙さんに当たって
ケガでもしたらどうするんです!?





……里沙……大丈夫?


一之臣さん! 二之継さん! 三之丈さん!
三人の方へ駆け寄ろうとした私を、大黒さんが制止する。



そう簡単には返せない……





その通り!
女を返して欲しければオレたちと勝負しろ!





勝負?





彼女を返して欲しいんでしょ~狐く~ん?





……ナンパ野郎が……
里沙に指一本触れんなよ!?





そうだ……クソ眼鏡、今こそ昔年の恨みを……





……誰ですかアナタ?





…………





は~はははははっ!
三之丈!
オレ様と勝負だっ!!





……里沙……僕のせいでゴメン……
こんな中二病の変態クズと一緒のドブみたいな空気を吸わせて……





傷ついた!
今本当に傷ついたかんな!!


なんか、本当に一方的に七福神さんたちが稲荷さんたちをライバル視しているっぽい……。



ともかく勝負だ!!





とっておきの舞台を用意してやるぞっ!


10分後。
七福神さんたちに促され、外に出ると……
そこにあったのは



何これ……
ステージ……?


七色の照明が輝く、大きな野外ステージが用意されていた。



勝負って……コレは一体……?


なんだかよくわからないけれど、また妙な事に私は巻き込まれてしまったみたいだ。
ここは……一体……?
歓声、悲鳴、さながらコンサート会場の様だけど……。



全国八十万神の皆さまこんにちわ!
ついにはじまりました、稲荷神VS七福神様イケメン対決のお時間がやって参りました~


はっ!?



イケメン……対決って何?


