本屋というのは大抵は静かなものだけど、今日は少し賑わっていた。その賑わいには私も加担していることは言うまでもない。
本屋というのは大抵は静かなものだけど、今日は少し賑わっていた。その賑わいには私も加担していることは言うまでもない。



というか、どうして俺も





お手伝いしてくださいと頼んだら『いいよ』といったじゃないですか。だからです





てっきり『クレフ』の内装だと思ってたからなんだけどな





なんだかんだ文句を言いつつもついてきてくれるのは嬉しいですよ。ほら、次です





はいはい


フレイスのどこか面倒くさげな返事を後ろに聞きながら私達は歩みを進める。



次の方……あっ





こんにちは。お願いします





……はい、ありがとうございます


私は笑顔でフレイスの事件の時に必死に書いていた最新作のクローバーⅦを差し出す。そして後ろのフレイスも同時に。これは個人用と店に置くようの二つだ。
そしてフレイスを引っ張ってまで来たのは今日、ここでアキス先生によるサイン会が開かれるからだ。
キュッキュッと手慣れた様子でサインを書く。



はい、どうぞ





ありがとうございます。それでは





あっ、待ってください





えっ?


呼び止められたと思ったら後ろを振り返り誰かを呼んでいる様子。そして出てきたのは。



なんですか?あっ


ティーチ氏が私の顔を認めて驚いた顔をしてから理解の感情を広げる。



彼女たち……あとで……





はい、わかりました


こそこそと耳打ちをするアキス先生。それからティーチ氏は前に出てきて私達に微笑みかける。アキス先生はサイン会を再開している。
そういった人たちに聞こえないように声を潜めて尋ねる。



この後、お時間ありますか?





はい。フレイスは?





空いてるよ





でしたら、少々控室でお待ちくださいませんか。20分ほどでサイン会も終わりますし





なるほど。わかりました。フレイスもいいですか?





うん、問題ないよ





では、こちらへ


ティーチ氏に案内されて普段は入れない店の裏側、そこに用意された部屋に行く。



少々お待ちください。お茶などはご自由に





ありがとうございます





あざっす


私達は頭を下げてティーチ氏を見送る。



思いかげずだったな





本当に。というかさっきの人は?





フレイスはしらないですもんね。アキス先生の担当編集者さんです





へぇー。あの美人さんがね


と、少し笑いながら頬をつく。



……そういえば、浮遊魔法の使い手だそうですよ





浮遊……。マジか


何かしでかす前にくぎをを指しておく。フレイスの女癖の悪さはよく知っている。
変にマスクもいいし、口もうまいからか女性関係にも強い。私も最初の最初は口説かれたものだ。



マジです。変なことはしないように





アリスも言うようになったよなぁ。最初の謙虚さはどこにいったのか





フレイスが茶化してばかっりだからじゃないですか?





それを言われたらたまっともんじゃないな


フレイスは肩をすくめると机に上に置いてあった茶菓子を手に取り口に運んだ。



フレイス、本は汚さないようにお願いします





わかってるって





本当でしょうか?


疑いの目を向けながら本の世界へと移行する。この世界は本当に親近感がわくようで、それでいてファンタジーと呼べるような世界だった。
魔法も無ければ警備隊もない。代わりに警備隊は警察と呼ばれてたり、SFのような機械が魔法がないことによる不自由さを解放する。



本は色々と見せてくれる


ここにきて初めてはまった本ともいえるこれは私から時間という概念を忘れさせていていた。それを戻したのはひかえめなノックの音だった。



はいー、どうぞー





お待たせしました。サイン会の方おわりました。先生も次期に―――あっ





お待たせしてすみません。アリスさんと……フレイスさん、でしたっけ





はい、フレイスです。貴方が、アキスさんですね





はい。以後、お見知りおきを





こちらこそ、よろしくお願いします


笑顔で握手を交わす二人。ほんと、外面だけはいいフレイスは人につけ込むのが上手い。



私は後片付けなどをしてきますのでごゆっくりどうぞ


ティーチ氏は頭を下げてこの場から立ち去る。というか、年齢は知らないけど……何歳なんだろうか。アキス先生のクローバーシリーズ、発表が3年前。その時には編集者として立派に働いていることになるんだけど。



にしても、驚きましたよ。お二方がこられて





俺はアリスに拉致られただけなんすけどね





せっかくのサインをいただけるチャンスでしたし、フレイスには“快く”協力していただきました。ですよね?フレイス





……はぁ


私の問いかけには答えず失礼にもため息だけをついてきた。アキス先生もそれ以上は深く突っ込まず笑って話題を変える。



なるほど、そうでしたか。そういえば、クローバー、読んでくださったんですか





はい、まだ一章の途中ですけど





あー、俺も少し。前半も前半ですけどね


クローバーは連続する物語ではあるものの、一つ一つの事件はオムニバス方式のような形を採用している。そのためフレイスのような途中から読み始める人もキャラや世界観さえ簡単に理解できていれば問題ないともいえる。



でしたら……ちょっとしたクイズといきましょうか。これを見抜けたら、そうですね。これからクローバーの新刊、すべてクレフに寄贈いたしますよ。もちろん、サインつきで





本当ですか!?


ガタッと音を立てて椅子から立ち上がる。



あ、アリス?





フレイス。謎解きしますよ





こうなったら、止められないからなぁ。俺のうまみがほとんどなさそうだけど……。そうだ、先生





なんですか?





俺の褒美といいますか、先生。俺に紹介できる女友達いますか?





ご紹介、ですか……。くすっ、わかりました。私が知る中で一番美人な片をご紹介しましょう





やーりぃ


パチンと指を鳴らすフレイス。一瞬だけ冷たいまなざしで睨む。けど、私としてもどうしても譲れないものがある。ここはフレイスと共闘。



それでは、クローバーシリーズから問題です。実はこの第一章の窃盗事件。ボツにしたトリックもありました。それについてお話しします。そのトリックを見事見破れるかどうか、です





なるほど。わかりました





了解





それでは、問題です


ピンと指を立てて説明を開始する。



被害者は国立美術館。被害物は『万華鏡夕日』という絵です。窃盗されたと思われる時間は深夜2時から早朝5時。その根拠は深夜2時に警備員が確認している点。そして早朝の5時も同じく警備員が確認したさい盗まれていることが発覚されました


細かな点が違うけどこれは第一章と大筋は同じだった。違う点は犯行時刻や発見したのが警備員である点などだ。



さて、今回は絞らせていただきましょう。容疑者は三名。一人はこの美術館の館長です。二人目はこの近くに住む鍵師。三人目は定年間近の警備員。この警備員は前述した窃盗の第一発見者です





どうしてこの三名と?





監視カメラにこの三名がそれぞれ違う時間帯に国立美術館の入り口近くに映っていることが確認されたことからです。その他にもありましたが今回は割愛します


館長、鍵師、警備員か。どれもミステリの犯人になりやすそうな人たちだな。



それぞれ館長は大学入学を目前としたお嬢様、鍵師は最近離婚し、警備員は病状の妻がいました。捜査を続けていると事件発生から三日後。なんと、万華鏡夕日が返されたのです。なぜ盗まれ、返されたのか。その謎を解いてみてください





ヒントがすくないなぁ





解けるんすか?





ある程度の質問には答えていきます。お二人は警察、もしくは探偵辺りを軸に事件を解決に導いてください


そしてニッコリと笑って私達に放つ。



この事件。非常に興味を踊っていただければなと思います


どこから取り出したのかシャープペンシルをくるりんと回した。
