予想通りの返事が返ってきて、俺はたじろいだ。
―-誰、なんて。
一番訊きたいのは俺の方だ。
あの公園で出逢ってから、ここに無理矢理ついて来られるまで、彼女は自分のことを話そうとはしなかったし。



…あ、じゃぁ、この子誰?


予想通りの返事が返ってきて、俺はたじろいだ。
―-誰、なんて。
一番訊きたいのは俺の方だ。
あの公園で出逢ってから、ここに無理矢理ついて来られるまで、彼女は自分のことを話そうとはしなかったし。



麻生芹奈っていうらしいです


と、とりあえずさっき知った情報を出しておいた。



--で?どういう関係?





………………


はいアウト―。
俺には無理だ。もう無理。
俺は、正直に話すことにした。



…さっき、公園で会いました


そう言った瞬間、静かになる一同。



…で?ナンパしたの?


それを破ったのは響一さんだ。
普通の顔してそう訊いてくる。
…なんてことを訊いてくるんだ、この人は。
こんなだからいろいろと叩かれるんだよ!



そんなのしません





…じゃあ、逆ナン?


ちーがーいーまーすーッ
なんでそんな風なことしか考えつかないんだ。
俺は決心して口を開いた。
本当のことを言うしかない。



さっき雨の中ぶつかっちゃって





それで?





俺がぶつかったせいで服汚しちゃって





はいはい、で?





…シャワー貸してって





うん、だから?





……………


俺が押し黙ると、響一さんは怪訝そうな顔をして訊いてきた。



まさか、それで拾ってきちゃったの?


拾う、って…
響一さんは信じられないという顔をしている。
まあ、そうなんだけど。
俺自身信じられない状況なんだけど。
…そんな顔しなくたっていいじゃないか。
自分だって初めて会った女の人を部屋に連れ込んでるじゃないか~!



廉~、しっかりしようよ!
俺らに女の影は禁物だよ?


…本当、響一さんには言われたくない。
…これは、なんなんだろう?
ツッコミ待ちなのかな?
響一さんはそろそろ落ち着いてきたあの人から体を離して言った。



“れん”はそういうキャラじゃないでしょ?


キャラとか言わないでほしい。
女の人苦手なの本当だし。
さっきこの人に強く言えなかったのもそのせいだ。



えっと、芹奈ちゃん?


そんな中、将さんがあの人にタオルを渡している。
いつの間に!
将さんは素直にタオルを受け取り、髪を拭いているあの人に話しかける。



どこから来たの?





秘密!





いや、でもその服こっちでクリーニングして送っておくからおうちの住所…





家出してきたからその必要はないの!





家出!?





家出!?


俺と将さんの声が重なる。



なんで家出なんて…





人には話せない事情があってね!





そっか、じゃあ、今帰るとこないの?





うんそう!だからここに置いてよ!


…うわぁ、まじかこの人!もう少し気使おうよ。
そう俺が思っている間に、将さんの表情が変わる。
…あ、これはやばいかもしれない。
将さんにはダメだ。
この人、そういうのに弱いから。
困ってる人放っておけない人だから!
野良猫拾いすぎて部屋一個猫の部屋にしちゃった人だからー!!



きょーくん、かわいそうだよ


そう言って振り返った将さんの顔に、響一さんと俺は、嫌な予感を感じた。
ダメだ、本当、そういうのダメ!!
ただ、ここで反対なんてしたら、確実に俺らが悪者だ。
将さんは感情移入しきったのか(いや、絶対あの芹奈って人はそんなことないんだろうけど)、涙まで浮かべている。
そして、その顔のまま俺らに言ってきた。



この子、うちに置いてあげよう?


響一さんは笑顔のまま俺の方を向いた。



…厄介な子拾っちゃったね、廉


覚悟はしていたものの、その時のダメージは相当のものであったと…後で俺は高木さんに話すことになる。
