私は頷いてメモ帳のチェック項目に全てバツ印を入れる。



これでよし、と


私は頷いてメモ帳のチェック項目に全てバツ印を入れる。



うくっ……。配達してもらえばよかったかな……


そしてそのビニールの重さに思わず声が漏れる。ため息を吐きながらひとまずデパートの中にある休憩コーナーに座る。



流石に重いなぁ





お店以外でお逢いするのは初めてですね





えっ?あっ……アキス……さん


先生と言いかけて言葉を紡ぐ。彼の本のファンがここにいないとも限らない。同名で先生よびは少し迂闊かもしれない。



こんにちは。そういえば、今日はお休みするとかいてありましたね、お店





はい。本の調達をしようと思いまして





そういうのってご自身の足で選んでるんですね。注文して、とかそうじゃないんですね





大抵の本はそうしてます。ただ、いくつかの本は注文取引していなかったり、店舗販売のみでのサービスおまけのSSがついていたりしますから。あっ、店舗に並べてもいいという許可は会社単位で取っております。中にはこの本は並べるのを禁止というものや、このシリーズは販売何日以内は禁止というのもありますが、基本的にはOKをもらってます。もちろん、クローバーシリーズも





ははっ、そうなんですか


先生は笑う。それから自然に私の隣へと腰を下ろす。



アキスさんは大丈夫なんですか?お仕事





締切に追われているものもありませんから。大丈夫ですよ。というより、かなりの量の本ですね。何冊買われたんですか?





30冊ほど





さ、30冊も!?


私の言葉に驚きの声を発する。



この数月……、4、5、6月とお店で取り揃えております作者の本が連続で出たりして……。で、丁度今日、17日はエース社の本が販売されますし。


私は言い訳気味にそう告げる。こうなったら仕方のないことだ。いろんなタイプの本を読めるということを『クレフ』の売りにしている。そのため古書から新本、マンガ・雑誌から専門書までさまざまなジャンルを取り揃えている。
これらはすべて必要経費で落とせるしその他の点にかんしても半ば無理やりに必要経費として税金対策もばっちりだ。



しかし、重いでしょ?





ええ。まあ





でしたら、少しお手伝いいたしましょう。お店までお運びすればよろしいですか?





そんな!ご迷惑では





いつも仕事場と美味しい青汁を提供してくだっさているお礼です。やらしてください


にっこりとほほ笑み有無言わさず三つにまとめている本の内二つを手に取る。一つの袋には10冊ずつはいっているのでこれで20冊だ。



では、お言葉に甘えます





いえいえ。こういう時こそ私を頼ってください。本当は重力を操る系統や浮遊魔法。筋力増加魔法が使えればよかったんですけどね





身内にそのような魔法を使えるものは





ティーチさんが浮遊魔法使えるんですよ





あっ、そうなんですか


あの鬼畜そうな編集者さんが。たしかに、多くの資料を運んだりするなら浮遊魔法は便利かもしれない。



にしても、デパートとお店が近くてよかったですね





はい。結構な田舎町なのにデパートがあることを喜ぶべきかもしれません。そういえば、アキスさんはこの近くに住んでいらして?





そうです。ですから、クレフができたのは嬉しかったものです





そう言っていただければ何よりです


謙遜でも、なんでもなく私は小さく頭を下げる。
そこから数分、他愛もない会話をしてクレフへとつく。魔力照合をして扉を開け先生ともども中に入る。



とりあえず、こちらに置いといてください。本を入れることに関しては私が後程やりますので





はい、わかりました


彼はドサッドサッと本の入った袋を置く。その音がその本の重さを表していて少し申し訳ない気持ちになる。



ご迷惑をおかけいたしました。そうだ、お礼にお食事でもいきませんか?折角ですし驕らせてください


私はチラリと時計を確認してから告げる。このまま帰らすのは忍びない。



いえ、それは





いいですから。ぜひ





……でしたら、お昼はご一緒致します。ですが、割り勘で。代わりに次回分のフリータイム無料にしてください





それでお礼になるなら……。わかりました


私は少し困りながらも頷くことにする。わざわざデパートに戻るのも面倒でありデパート内の店は雰囲気代とでもいうのだろうか、対して美味しくもないのに無駄に高く設定してある。だからそこよりも安く美味しいパスタ料理を提供してくれる店に案内する。



いらっしゃいませ





二名で





かしこまりました。どうぞ、こちらに


店員は頭を下げて私達を案内する。この仕事をするようになってから頭を下げることの方が多くなったので逆に頭を下げられると少し違和感を感じる。
席に案内されてから私はメニューを先生に渡す。



結構いろいろありますね。悩みます





そうですね。バリエーションも豊富でお店にも近いので時々利用させてもらってる店なんで





なるほど……。アリスさんは何を頼むおつもりで?





私はいつもランチメニューを頼んでいるんです。本日は……たらこと海鮮風味のパスタとコンソメスープ。クロワッサンですね





なるほど、美味しそうですね。僕もそれにします





飲み物はどうします?





流石にパスタと青汁は合わなそうですね……


ここにきてまで青汁なんだ。あんな苦いものがどうして好きになるんだろう。



この後お仕事ないんでしたら、赤ワインとかここ美味しいですよ





あれ?失礼ながらアリスさん。ご年齢は……?





いってませんでしたっけ?21ですよ





えっ。もっと若いとばかり。てっきり未成年と思っておりました





よく言われます。アキスさんの公表年齢は25でしたよね





はい。もうすぐ一歳を取りますけど





なるほど。で、どうしますか?





せっかくですので赤ワイン、デキャンタでいただきますか





わかりました。それでたのみましょうか


店員を呼んで注文を告げる。すると赤ワインは先に運ばれてきたのでグラスにつぐ。



では……、なにに乾杯いたしましょうか





そうですね。では、3に乾杯でもいたしましょうか





3?


数字の3、だろうか。それが何を表しているのか。



このお店がクレフから3分ほどですし、出会うきっかけとなった本の入った袋が3つ。そしてワインの原料たるブドウは品種にもよりますがおよそ3年で収穫できますし、赤というのは三原色の一つ。後、3という数字は二つ目の素数。僕らは2人です。おまけでいうならクレフもパスタもワインも3文字ですから





なるほど。では、3に





3に、乾杯


私達はグラスをカチンと合わせて口をつける。
その時ひときわ大きな声がよそから聞こえる。



やっぱり、あの人浮気してるのよね……





ま、まぁまあ。まだ確定したわけはないし





もうすぐ誕生日だっていうのに……。なにが、今月は双子座の運勢はいいですよ、なのよ





こーら。飲みすぎよ。もう……


ふっと、そちらを見ると女性二人の客。少し聞き耳を立てると彼氏が浮気をしているらしい。



……アキスさんは、彼女とかいらっしゃるんですか?


話しの流れとして不自然ではないだろう。アキス先生もそちらを見ていたことから理解もできる。。



いえ。お恥ずかしながら仕事柄でしょうか。あまり女性とかかわることも無いので。アリスさんは?





私もです。普段は引きこもってばかりですので


たまに、ナンパを試みようとする下心が見え見えのオスもいるけど。
それからしばらく他愛もない会話をしていたらランチセットが運ばれてくる。丁度グラス一杯分のワインが無くなっていたのでお互いに注ぎあう。



それではいただき……、先生?


どこか心ここにあらずなようでフォークをもってぼんやりとしている。



いえ、先ほどの女性二人のお客さん。本当に浮気だったのかと少し気になりまして





えっ?さっきの?


そのお客さんはすでにいなくなっているので聞き耳を立てられる心配もない。聞き耳を立てていたのは私達の方だけど。



はい。少しお話を聞いていたんですけど……、確たる証拠もなく、また同時に気になる点もありましたので。少しおかしいなと





はぁ、つまり





それにしてもこの事件……。非常に興味が踊ります





やっぱり


私は少し呆れたように呟く。
たらこ海鮮パスタを一口すする私をよそに彼はシャープペンシルの代わりにフォークを一回転させた。
