あれから数日間、サジェスは毎日シャンスのところへ通っている。
まぁ、もちろん着いたところで――――



いつもありがとうございます、サジェスさん





ううん、ボクも好きで来ているから





……………………


あれから数日間、サジェスは毎日シャンスのところへ通っている。
まぁ、もちろん着いたところで――――



帰ってください


シャンスに追い出されてしまうのがオチなのだが。
それでも諦めないのは、サジェスなりに何か思うところがあるからなのだろうか。
たまに、学園の授業中にもノートに走り書きをしている。
何を書いているかは、エクリールでもすぐにわかった。
授業後にそれとなくサジェスに何を書いていたか聞いてみたが、はぐらかされてしまった。
とはいえ、何を考えていたのかは一目瞭然だったのだが。



シャンスさんの調子はどうだい?





体の方は今まで通り安定しています





ただ、やっぱり口数が少なくて……





……そうだろうね


まあ、サジェスがてこずっているくらいだ。
そう急に表情が戻ったりというのもないだろう。



彼女は今どうしている?





今は検診を終えて部屋で休んでいると思います





グッドタイミングだね!じゃあ行こうか





シャンスさん、こんにちは!





…………また、来たんですか





そりゃあ、ボクはキミと友達になりに来たんだから





帰ってください





二言目にそれは辛いなぁ~


今日もシャンス・スーリールの攻略は厳しそうだ。
名軍師であるサジェスをこうも一蹴し続けるとは。
エクリールは正直、あの頑なさには尊敬すら抱いている。
それにもめげずに攻め続けるサジェスにも相当な頑固者だが。



…………それにしても





私は結局、サジェスに何も伝えてない





シャンスが怪我をした経緯を……


フラッペ上官に報告を終え、帰ってきたときにはサジェスは既に眠っていた。
まだ日付も変わっていないのに、である。
普段なら、新しい研究テーマが決まったら、計画を立てたり文献をあさったりと連日徹夜は当たり前と聞いていたのに。



まぁ、サジェスが誰に会っていたのか、私も知らないんだが


考えられるとしたら、彼女の研究の相方であるアルエット・コネッサンスだろうか。
最近になって所在が分からなくなっており、軍の幹部が必死に探そうとしているのを耳にしたことがある。
優秀な魔法使いはそれだけで利用価値がある。
そういう意味も含めて、この国だけでなく近隣諸国でも魔法使いの育成に必死なのだ。



とりわけ、アルエット・コネッサンスはサジェス・エフォールと比肩する天才だ。万が一潜伏している敵国の間諜に奪われでもしたら……


少なくとも、国にとっては大損害だ。
優秀な魔法使いの獲得は、そのまま国力の増強につながる。
遅れを取るのは敗北につながる。



天才…………か


エクリールは、ぼんやりと病室の外からサジェスを見る。
名軍師の采配は、どうやら今日も空振りらしい。



サジェスは、シャンスの傷を魔法の事故が原因だと思っているようだが……


間違ってはいない。
フラッペ上官からすべて聞いていたエクリールはシャンスの怪我の理由も把握している。
否
把握しているからこそ、エクリールはサジェスに伝えることができなかった。
もし真実を知ったら、サジェスはきっと絶望してしまうから――――。



それじゃシャンスさん、また明日ね!





……………………


サジェスが元気に手をブンブン振っている。
その向こうのシャンスの目は、依然として鋭いままだ。
エクリールですら思わず怯んでしまう。



待たせたね、エクリール。じゃあ帰ろうか


そして、そんな視線を受けてもびくともしないサジェスもすごい。
鉄でできているのだろうか、彼女の心は。



それじゃフェイールさん、明日もまた来ます





え?あ、はい……


フェイールはあっさりと帰っていくサジェス達をぽかんとしながら見送った。



期待に応えられてなさそうだな





まぁね。でも、彼女が見ているのは夢なんだよ。『天才』なら女の子の傷ぐらいパパッと治してあげられるって思っているんだ


自分で天才って言うのは、ボクは好きじゃないんだけどね。
そう、サジェスは自嘲的に笑った。



とどのつまり、僕らは同じ人間なんだ





目標に向けて、小さくても一歩一歩努力していくしかないんだよ


そう言うサジェスの顔は、どこか寂しげだった。
そして、どうしてそんな顔をするのか、エクリールは分からなかった。



お疲れさま。仕事の方は順調?





いや、全然。特にフェイールさんの方は八方塞がりだよ





……難航してるみたいね





一応、軍の依頼の方はそれほど滞りなく進んでますが





軍の命令を無碍にできないだろう?


そうやってさらりと言ってしまうサジェス。
エクリールと学園長はそろって顔を見合わせる。



それより、フェイールさんの依頼はどうするつもり?





一応、考えてはあるんだ。彼女の笑顔を呼び覚ます奥の手は





そうなのか?





人が記憶や表情を失うのは、何か精神的に大きなショックを受けた時





だから、その逆をすればいいんじゃないかって





ちょっと待って。シャンスさんは怪我しているし、精神面に傷を抱えているのよ。危ないことでもしたら……





ひどいなぁ学園長。ボクが今まで意図的に危険なことをやろうとしたことがあるかい?





シャンスさんに危険はないよ。それは保証できる。ただ、それを実行するのにちょっと手続きが必要でね





手続き?





エクリール、軍に行って手続きをしてきてくれないか





今週末に、気球を浮かせるってね


To be continued...
