馬車から見える景色はやはりバラバラの世界をつぎはぎしたみたいで、私はじっとその不思議空間を見つめていた。
馬車から見える景色はやはりバラバラの世界をつぎはぎしたみたいで、私はじっとその不思議空間を見つめていた。



人間の世界とは大分違うでしょう?


二之継さんは微笑んでいた。



あっ、はい……なんだか本当に夢みたいで……
でも、楽しいですよ!
いろんな景色が見えて……





クス……好奇心のある所
昔と変わらないですね……





へっ?





いえ、独り言ですよ……


そう言って、二の継さんは窓の外へと視線を外す。
「変わらない……」
二之継さんのその言葉に私は、さっきの一之臣さんの言っていた事がふと頭をよぎった。



オレたち会った事があるんだぜ……





あの……
私、みなさんにお会いした事があるんですか?





えっ?
……あ~っ、バカ兄がもう言ってしまったんですね?





バカ兄……





結論から言えばあります。
でも……





でも……?





それは……
貴方にとって忘れなければいけない事でした





どうしてですか?





私たちは禁忌を犯してしまったのですよ……





禁忌?





あれは……
あなたが私たちの祖父と例の約束を交わした日です……





お~い、チビたち~!
喜べ!
オマエらのお嫁さんを見つけてきてやったぞ~





お嫁さん?





えっ?





…………





人間のお嫁さんだ~!
オマエらの誰か一人は、その娘と結婚するんだぞ!





はぁっ?





えぇっ!?





…………





名前は、菅原 里沙(すがはら りさ)
もう約束したんだからいいなっ!!





そんなの聞いてね~し……





そういう決まりなの!
わかったか?
それとも~……
お・仕・置・き??





ううっ……
わかったよ~……





わかりました……





うん……
おしおきはいや……





オレいいや……ニノ結婚しろよ





はっ?
何でぼく?
ぼくも嫌だよ~知らない子となんか





…………お兄ちゃんたち~、がんばれ~





いや、ジョウ……
オマエもだから……





んじゃっ、ジャンケンで決めよ~ぜ~っ♪





ヤダよ、兄さんすぐ後出しするし……





あ~っ……それと
その娘が16歳になるまでは、絶対に会っちゃダメだからな……





えっ?
なんで?





ダメなものは、ダメなの~!
そーゆー決まりなんだよ……





ふ~ん……





はぁいっ!!





…………ふぁぃ……


そのときの私たちは急に言われた結婚相手に戸惑い、身勝手な祖父への反抗心もあってどうにか結婚しない方法は無いかと考えてました。



よし!
今からソイツに会いに行こうぜっ!!





は~っ?
兄さんおじいさまの話聞いてた?





ダメって言われた事をすれば、結婚なんかしなくてもいいかもしんね~んだぞっ!?





で、でも、もし……
おじいさまに見つかったら?





う~ん……
地獄に落とされるかもな!





えっぇぇぇぇぇぇ~っ!!
ヤダよ、そんなのっ!





じゃあ、オマエ
そんな知らないヤツと結婚出来るのか!?





それもイヤだけど……
なぁ、ジョウはどう思う?





ツグ兄……そのお嫁さんが~……
もしこんなんだったらどうする~?





ウジュルウジュル……





絶対イヤだ……
つーか、オマエまだソイツ飼ってたのかよ!?
早く放して来い!





へへっ……





ほらっ!
早く行こうぜ~っ!





僕らだけで人世(ひとよ)に行くとか本当に大丈夫なの?
顔も知らない相手なんて、そんなすぐに会えるかな?





真名(まことな)がわかってればすぐ見つけられるだろ?





そうだけど……





よ~し、行くぞ~っ……
お~っ……





ウジュル……





ソイツは置いていけよ……


そうして、会いに行ったんですよ。
私たち三人で、人間のアナタの住む世界へ……



いたぞっ!
あいつが、りさだ……





…………





ふ~ん……
普通の子だね……





…………





なぁ!
どんなヤツか声かけてみようぜ!





えっ!?
そんないいの?





いい……





もう、おじいさまに怒られても知らないよ!





笑ってしまいますが、私たち三人ともアナタに会った途端好きになってしまいました……





えっ……!?





毎日のようにアナタに会いに行って、
一緒に遊んだんですよ





そうなんですか……!?





最初こそあんなにイヤがっていたのに、アナタに会ってからは誰がアナタと結婚出来るか、別の意味でケンカになりました……





……あっ、あのでも……
ごめんなさい。
私、三人の事覚えて無いんです……


二之継さんはスっとその綺麗な指先で私の額に触れた。
ポゥと体が一瞬、暖かくなる。



呪い(まじない)がかけてあるんです





まじない?





禁忌を私たちが破っている事に、祖父が気づかないはずありません。
ある日、いつもの様に遊んでいた私たちの前に現れ、祖父はアナタの中の私たち三人の記憶を封印したのです





記憶を……封印?





私たちが禁忌を犯したからです。
約束を破れば人の世と神の世の均衡が崩れてしまう……祖父はそう言っていました。
まさか、私たちがアナタに会いに人間の世界に行くなど、厳格な祖父を何より恐れていた私たちがまさか約束を破ろうなど、祖父も思っていませんでしたから説明もこの時にならなければしてくれませんでした


あの人がそんな恐いとか厳しいなんてイメージ無いけど……。



やっほ~☆





ですから、里沙さんが私たちを思い出せないのはしょうがない事です





あの、じゃあ……
この封印を解いたりは出来ないのでしょうか?





それは私たちにはなんとも……
祖父にしか出来ないと思います





そうですか……


なんだろう。
このもやもやといた気持ち。
思い出せない記憶は、私にとって凄く大事な事の気がする。
いつか、ちゃんと取り戻せるのだろうか……。
