終業のチャイムが鳴ると、私は大急ぎで三年の教室へ向かった。
沙羅ちゃんに直接会うためだ。

私は教室に行くとドアの近くにいた女子に話しかける。
たしか彼女はこのクラスの委員長のはずだ。
沙羅ちゃんと話すためにまず、許可を取ろうと思ったのだ。
いきなり上級生の教室にズカズカ入るのはさすがにためらわれたからだ。

修ちゃんは冷静に言った。

一周目だったら空気を読まずに突入したけどな。

私が胸を張っていると委員長はとてつもなく偉そうに答えた。

けんもほろろとはこういう状態のことを言うのだろう。
しかも露骨に迷惑そうな顔をしている。
これが三年の振りかざす権力だというのか！？

でも腹を立てても仕方がない。
私は大人しく用件を言う。

沙羅ちゃんがてめえにかけてる迷惑なんてねえ！

と、反射的にキレそうになったが大人しくする。
ここは我慢だ。
私がキレたら沙羅ちゃんに迷惑がかかる。

それになんで怒っているかはわかる。
おおかた自分の受験に不利になるとか勝手に思い込んで、被害者ぶっているのだろう。

ただ少し声が大きくなった。
少々ムカついたのだ。
私は人間の弱さを非難できるほど上等な人間ではない。
だけど友達の悪口を言われたら、そりゃ腹が立つ。

うるせえ！
ここで怒らないでどこで怒るんだよ！

幸いなことに、このやりとりは委員長には伝わらなかった。
委員長はぶっきらぼうに答える。

偉そうだなおい！

沙羅ちゃんは妊娠中なので私が行くと言ったのに、クラス委員と思われる女子に入るなと止められ少しイラッとする。

後で泣かす！

私が偉そうな委員長に腹を立てていると沙羅ちゃんはやってきた。

大きなお腹。
優しそうだけど、要領の悪そうなボヤッとした印象。
でもやはり沙羅ちゃんは変わらない。
後輩にも敬語を使う優しい女性だ。
でも彼女はまだ私のことは知らない。
約２年後には同じ職場で働くなんて思ってもいないだろう。
私は初対面だと頭を切り換え挨拶をする。

沙羅ちゃんは下を向いた。
そりゃそうだ。
沙羅ちゃんから見れば私は沙羅ちゃんを学校から追い出そうとする連中の仲間だ。
警戒するのは当たり前だ。
だからまずは誤解を解かねば。

お嬢様言葉はつかれるにゃー。
自分でもなに言ってるかわからないから要約すると

うん、わかりやすい。

今日も修ちゃんのツッコミはキレッキレッだ。
でもいつか仕返ししてやる。

被った化け猫は役に立たなかった。
変に気を遣われてしまった。

全員ぶっ飛ばしてくれるわ！

私は胸を張った。
私は私が正しいと思ったことをするのだ。
私は今回の人生ではこのラインだけは譲らない。

小さく沙羅ちゃんは頷いた。
次の瞬間、沙羅ちゃんの目から涙がこぼれた。

私は沙羅ちゃんを抱きしめた。

本当のバカっていうのは一周目の私みたいなやつのことだ。
私は知っている。
この三ヶ月後に子どもを産んで、そして家も学校も追い出されて、それでも一人で働いて子どもを育てていた姿を。
私は不器用だなあって思いつつも彼女の姿を尊敬していた。
沙羅ちゃんは私なんかより何倍も上等な人間だ。
それが針のむしろにされ、孤独を味わっていたのだ。
その苦痛は同じ目にあった私だからわかる。

私は沙羅ちゃんが泣き止むまで抱きしめていた。
結局、話はなにも聞けずじまい。
でも後悔はしていない。