ヤマイダレさんは訊いた。
私たちは虚をつかれた。
お姉さんたちは、いっせいに眉をひそめた。



なんで、この子たちを保護したの?


ヤマイダレさんは訊いた。
私たちは虚をつかれた。
お姉さんたちは、いっせいに眉をひそめた。



いえ、そういう意味じゃないの。あなたたちがこの子たちを大切に思う気持ちはよく分かる。私だって、この子たちを守りたいと思ってる。誰だってそう思うわよ





じゃあ、なんでそんなこと訊くの?





『なぜ、あなたたちはこの子たちと出会ったのか?』 まず、そこから訊いたほうが良かったかしら?





………………





………………





………………





私たちは、この子たちを守りたいと思ってる。でも、それは一緒にいるから。出会ったからよ。でね、私の場合はこの子たちが来たからなんだけど、あなたたちの場合はどうだったのか――ふと疑問に思ったわけ





それは、私たちが学校から逃げようとして





だけど校門で痴女に囲まれて





そこにお姉さんたちが現れて





あなたたちを救った。そして、自衛隊駐屯地まで逃げてきた。それで間違いない?


ヤマイダレさんは、ゆっくりと私たちを見まわした。
私たちは、ツバをのみこむように大きくうなずいた。



そう。私はこのことに違和感をおぼえたの。学校はここから遠く離れたところにあるんでしょう? 自衛隊駐屯地のなかには、ないんでしょう?





うん





だったら、やっぱりおかしいわ。なんで、CIAとMI6とKGBが突然、中学校に現れるのよ?





あっ





しかも3人そろって





ああ





中学生の子供がいるようには、とても見えないわ


ヤマイダレさんは、イタズラな笑みでそう言った。
お姉さんたちは絶句した。
ヤマイダレさんは冷然と言った。



正直に全部を話せ――とは言わないわ。でも、このことだけは正直に言って。みんなが安心してここに暮らすためにもね





………………





………………





………………





なぜ、わざわざ中学校まで行ったの?


ヤマイダレさんは低い声で短く言った。
お姉さんたちは息をのんだ。
お互いの目と目を逢わせた。
うなずきあった。
そして言った。



分かったわ、正直に話すわよ





ありがとう





私たちが中学校に行ったのは、痴女の大量発生から9時間の後。このときには、どの国も穏便な手段による事態の収拾をあきらめていた。こしのくに市を完全封鎖、最悪の場合は、爆撃による浄化鎮圧。そこまで視野に入れていた





うそっ





そんなっ





まさかあ





いいから続けて。この子たちにも聞かせてあげて





そんななか、我々CIAには、クイーン種を含むオリジナル痴女のせん滅、ならびに、市からの撤退命令が下された。そして私には、もうひとつの命令が下された――『痴女ウィルスに免疫を持つ人物の確保』よ





それが中学生?





分からない。でも、こしのくに市で育った子供たちは『免疫を持つ可能性が高い』と言われている。世界大戦の終戦時に、研究施設が爆発したからよ





あの爆発によって、施設にあった痴女ウィルスは飛散した。そして土壌に染みこんだ





ええ。だから、『ここで育った子供には抗体がある、免疫がある』と言われている。ただ、本当に免疫を持つ子がいるのか、人類は痴女ウィルスの抗体を持てるのか、それは分からない。いちるの望み、ワラにもすがる思いで私は中学校に向かったの





それはMI6も同じだ





KGBもよ





で。この子たちに出会った





その通り。ただ、出会ってしまえば、そんな理屈など、どこかに吹き飛んでしまったわ





守らなければと強く思った





まあ、それはあなたも実感しているとは思うけど





ええ


ヤマイダレさんは、穏やかな笑みをした。
そして言った。



正直に答えてくれてありがとう。私も正直に話すわね





………………





………………





………………





私は免疫を持っている。痴女ウィルスに抗原抗体反応があるのよ





あっ





だからランニングマンに吸われても





平気だったんだあ





この子たちが証人よ





まさか本当に免疫を持つ人間がいるとは





だから冷凍睡眠してたのか





ほんと食えないわね。日本も、そして、あなたも


私たちは呆然と立ちつくした。



さて。これで私たち日本人も、あなたたちと対等になった。というわけで、私はさっそく交渉を持ちかけるのだけれども





交渉?





おそらく、この痴女の被害は日本全土に広がっている。シビアに現実を見れば、日本国内に逃げ場はない。数日のうちに日本のすべては痴女になる





同意見だ





私は、あなたたちの国に保護を求める。条件は、ひとつ。この子たちも一緒に保護すること。この子たちが免疫を持っていなくても受け入れること





うむ





もし、ひとりでも死んだら、たとえそれが不慮の死であっても、私は絶対に許さない。免疫とともにこの世から消滅する。これが、あなたたちが免疫を手に入れるための条件よ


ヤマイダレさんは笑顔で、恐ろしいことを言った。
