温泉に入った後はその温泉宿に泊まることになった。
そこそこ大きな温泉宿なので人がいる。
だからナンパもうまくいくと俺達は思っていた。
否、今まで上手く行かなかったが今こそ上手くいくようなそんな錯覚に陥っていたのである。
そして“惨敗”という名の結果だけが残った。
温泉に入った後はその温泉宿に泊まることになった。
そこそこ大きな温泉宿なので人がいる。
だからナンパもうまくいくと俺達は思っていた。
否、今まで上手く行かなかったが今こそ上手くいくようなそんな錯覚に陥っていたのである。
そして“惨敗”という名の結果だけが残った。



……





……


部屋の隅で俺とレイトは膝を抱えて暗く俯いていた。
理由はナンパに失敗しただけではなかった。



……男は嫌だ。
俺は女の子が好きなんだ





ああ……そうだな


何人もの女性に失敗した俺達は、その女性の筋肉隆々の兄達に、あら、可愛いわねと言われてしまったのだ。
その後の展開は思い出したくないので語らないが、やはり女の子が大好きだと俺達は再確認した。
そして、女の子達に相手にされなかった絶望と先ほどの悪夢に俺達は憔悴しきっていた。と、



あー、気持ちが良かったわ。
と言うかのぞきにもこなかったのね。





残念


何が残念なのかと俺は思った。
というかのぞいたらそれ自体が罠だった可能性もあるんだなと俺は気づいた。
やはり真面目が大切であると俺は思っているとそこで、



そういえば二人共どうしたの?





実は……


俺は正直にナンパを失敗したあたりの話をした。
だが話して後悔した。



駄目、面白すぎる……


フィリアにものすごく笑われてしまった。
それはもう話すんじゃなかったと思うくらい。
レイトも更に落ち込んでいると。



もう諦めたら?





諦めたらそこで女体化決定じゃないですか!





……他にも選択肢はあるでしょう? んっ?


俺はフィリアからさっと顔をそむけた。
だが、そんな俺にフィリアが、



ふーん、下僕のくせになまいきね。
どうしてくれようかしら





ぷるぷるぷるぷる


俺は何かを踏んでしまったような不安を覚えて震えた。と、



やっほー、ここに泊まっているのってバレバレなんだからねー♪





ちなみに巨乳って、胸に栄養がいっているから頭に行っていないと思わない?
フィリアちゃん♪


現れた人物に俺達は固まった。
けれど立ち直ったのはフィリアが一番早く、そこでフィリアは嘆息して、



ここって前払いのお宿だったのよね。
残念だわ





とりあえず話くらいは聞いてくれればいいのに。
一応、包囲網はなしでお願いしているし





あら、逃げやすくていいわね





だからちょっとは話を聞いてよ


彼女、マリーはそう嘆息するように言う。
そんなマリーに、フィリアは、



いいわ、少しは聞いてやるわ





ありがとー。
でね、話っていうのは……


そこで、窓を破って何かが現れたのだった。
何かが窓を破って現れた。
黒い球であるそれは、コロコロと部屋転がると共にどろりと溶ける。
だがすぐに、その球よりも大きい人型を形作る。
俺とちょうど同じくらいの大きさになったそれは、顔らしきものを俺達の方に向けた。と、



ちっ、見張りを置かなかったのは失敗したわね。
まさかここで……ああもう、少しは話をさせてよ!


マリーは怒った様に手を上から下に降りおろす。
同時に風が吹き荒れてその黒い物体を神の様に切り裂いて……その黒い物体が地面に落ちて黒い液体となって転がり、やがて消えた。
後には砕けたガラス玉の様な物が転がっている。
それを見てから溜息をついたマリーは、



フィリアとユニコーンの末裔の力が今はどうしても必要なのよ





ふーん、それでどの程度譲歩は引き出せるの?





料金は相談次第





自由に実家に帰れるかどうかは?





えーと、実はその件なのだけれどね……


マリーがどう説明しようかというかのように口ごもる。
けれどその間にまた今度は三つほど黒い球が放り込まれて、



しつこいわね





とりあえずここから移動したほうがいいんじゃないのか?
こちらの様子が見えているようだし





そうね


そうして俺達はその部屋から逃走したのだった。
逃走中にフィリアが聞く。



さっきのあれなんなのよ





えっと、敵対勢力です





名前は?





名無しの集団ということで、“ノーネイム・クラスタ”と自分達を呼んでいるらしいです





で、どうして私達を?





いや、実は“神殿”内で最近厄介な遺物が見つかっちゃったの。
ドワーフっていう妖精族が昔いたでしょう?





ああ、あの魔法道具づくりが上手い……でもそのドワーフって、職人気質だから結婚とか子供を作るのにあまり興味が無いのもあって、混血もあまり残っていないんだったかしら?





そうそう、それでその彼らが作ったちょっと危険な魔道具なんだけれど上手く使うと、私達の生活が画期的に代わるというシロモノがあってね





ふーん、それで?





解析を進めているけれどちょっと難しい問題にぶち当たって、そこで丁度、フィリアちゃんの能力がバレたのも好都合というか。





フィリアちゃんの能力が、その装置に必要だって話になったんだけれど……フィリアちゃん、逃げちゃったのよね





当たり前でしょう? マリーの話を聞いたら……





というわけでここの中で、“神殿”のスカウトについて詳しい方はいらっしゃいませんか?


マリーがそんなことを言ってきた。
そしてそれに答えたのは、レイトで、



あれでしょう?
ヘッドハンティングみたいなものでしたよね?





正解でーす!


マリーが明るい声で答えた。
そして、それとは対象的にフィリアは無表情になる。
なにか行き違いがあった様な俺が思っているとそこでフィリアが、



実は今まで嘘ついてましたー、とか言ったら友人辞めるからね? マリー





じょ、冗談のつもりだったの……てへ?


笑って誤魔化そうとするマリーに更にフィリアが冷たい視線でマリーを見てそこで俺は聞いてみた。



フィリアは、マリーにそのスカウトの件をどう聞いていたのですか?


