天狗?
天狗?



でもさ、元親いいなー。
ボクなんて、小さいころから武器持たされて、天狗に稽古つけられたし……。





稽古はさせられたよ。
あんまり筋肉つかなかったから、姫若子って言われてたけど。





天狗と稽古っていいじゃん。ボクもやりたいくらいだよ。





真っ暗な鞍馬山、上から下まで走らされて、音だけを頼りに真剣受けたりしてみろよ。





大変そうだな……。





天狗が師匠だったのか?





天狗って言ってたけど、世捨て人みたいな人たち? ちょっと人間離れしていたな。





強えーのなんのって、
ハンパなく強すぎ。





あれじゃ化け物扱いされるよ。


天狗って人だったんだ。
物の怪がホントにいたって思われていた時代だし、すごく強い人がいたら、そうなるんだろうな。



「たち」ってことは、
複数いたんだ。





人数はわからないんだけど。
闇夜に紛れてなんかしてる集団?


……怪しくね?



自分たちの稽古の合間に教えてくれた。





稽古っていうか、
あっちは修行?


どう違うの?



滝に打たれたり、妖術使ったりしてたけど、ボクには素質がなかったみたいで、そういうのは教えてもらえなかった。





なんか根本が違ってたみたい?





妖術……?
やっぱり物の怪なんじゃないの?





じゃなきゃ、
ヘンな宗教団体?





でも、ほぼ同じ人が見てくれたかな。面してたから顔はわかんないけど。


怪しすぎるでしょ?



暗闇で面して妖術使ってる集団?





←
こんなのか?


あ、でも天狗っていうくらいなんだから、



←
こーゆー感じ?





←
あ、うん。コレだな、コレ。


でも、妖術……?



←
…………。
コレはさすがに……


違う気がするけど、かぐや姫も月から来た宇宙人だっていう説もあるし、浦島太郎は亜光速で竜宮城に行ったから、戻って来た時に周囲の人たちが老けちゃってたんだっていうのがあるし。



玉手箱を開けて急激に年を取ったのは、宇宙船では説明できないみたいだけど……。


あれ?
何の話だっけ?



てか、覚えてない。
ちいさかったから。


子供の頃の記憶違いが原因なんじゃ……?



そうよ、きっとそう。





あそっか、
牛若丸なんだ。





うん。そうだよ。


義経の幼名は牛若丸。
天狗に修行させられていたとか、日本の昔話にもなってる。
金太郎に近い感じなのかな?
でも、小さいうちから真剣持って稽古してたってこと?



強かったの?
ホントに?





殿は強いぞ。





お前はテレパスか?





話の流れから貴様の考えそうなことを想像しただけだ。バカ者めが。





「バカ者め」って何よ。
チビゴスロリのくせに。





この姿は背が低い方が似合うのだ。
貴様は着れないな。


たしかに似合ってはいるけどさ……。



そんなもん、
着たいなんて思わないわよ。


頼まれたって着ないわ。



静かにしてください。
ばれちゃったら二人の話、聞けなくなっちゃいますよ。


おとなしくしていないといけないんだった。
今更だけど……。



すまぬ。





いえ。
大丈夫みたいだし、
気にしないでください。


だから、どうして聡士の彼女には素直なの?



元服してからも来てくれた人いたけど、ほとんどはそれぞれの修行をしていくって感じだったな。





そういう話、
聞いたことなかったかも。





もしかしてなんだけど、
崇徳上皇もいたかもしれない。





誰だっけ?
なんか聞いたことある。





三大怨霊のひとり。





怨霊?





亡くなった後、天変地異を起こしたり、疫病を流行らせたりしたことになってる。


また物騒なものが……。



もちろん、ボクが会ってたのは、ちゃんと生きてる人のことだよ。
天狗さんたちと一緒にいる感じだった。





崇徳上皇は、後白河法皇と対立していた後白河法皇のお兄さんで、保元の乱の後、讃岐に流されたんだ。





あのタヌキおやじの兄貴?





兄貴って、
ロクな感じしないのよね。





←
これの兄貴、最悪だったし。





讃岐か。
なんか聞いた気がすると思った。


讃岐は現在の香川県だけど、平安末期と戦国時代だとちょっと違うんじゃない?



保元の乱で亡くなった人の魂を弔うために、写経をして朝廷に送ったら後白河法皇に「呪いがかかっている可能性がある」って突っ返されて、天狗のようになっちゃったんだって。





実話なのか?





そういう史実はあるよ。





いや、
天狗になってるし……。





さあ?
保元の乱は生まれる前だし。


義経が生まれたのは、保元の乱の三年後の平治の乱の時。静はそれよりも10年後に生まれた。



その話を聞いたのは経次郎になってからなんだけど、ボクが会ってた人、なんか似てたような気がする。





どんな人だったんだ?





頭良さそうな人?


ざっくりと言うのね……。



何を話してたのか忘れたけど、いろいろ教えてくれたよ。


そういうの、忘れちゃうのね……。



物静かな感じで、
清廉な人って感じだった。





タヌキな後白河法皇より、
いい人な感じがした。


やっぱりタヌキよね!



保元の乱で、父上は後白河法皇についちゃったけど、お祖父さんや叔父さんたちは崇徳上皇についてたから、きっといい人だったのかも。





タヌキの天敵みたいな人?





じゃ、キツネ?





キツネだと似たような感じじゃん。
不正が嫌いっぽい感じな人だった。





なんか、カッコイイ人?





へー。





牛若が小さかった頃に、亡くなったって聞いて、けっこうショックだった。





タヌキのお兄さん、
そんな人だったんだ。





穏やかな感じで、でも、何か思うところがあるような人だった気がする。





全然関係ない人だったのかもしれないけどね。


そう言って笑う経次郎は、少し淋しそうだった。



保元の乱で、崇徳上皇が勝ってたら、違う世界になっていたのかな?


人々が苦しんでいても、何とも思っていなかったタヌキ。その天敵。
もし、崇徳上皇のような人が、あの頃、統べていたのなら、人々の生活は良くなって、平安時代はもう少し続いていたのかもしれない。



でも、そうなっていたら、義経は生まれていなかったのかも。


平清盛はあんまり関係ないかもだけど、保元の乱で父親の源義朝が亡くなっていたら、義経は生まれない。



……。


正しい人が統べる世になるより、悪い人が統べていても、彼が生まれる方がいいなと、ちょっと思った……。



それに、タチが悪い貴族はタヌキ親父だけじゃないもの。あのタヌキはちょっと目立ってたってだけ。





どうせ、崇徳上皇が勝っていても、似たようなことになるわ。





それなら……


歴史に「もしも」はない。
失敗から学べばいいのよ。



同じ失敗は、
繰り返さなければいい。


だから私は、経次郎と一緒に過ごすことに決めたんだから……。



戻らずに進むの。
だから、未来で会えた。


諦めなければ、会える……。
