いくら冷徹な漫画製造マシーンな笹宮さんでも友人の一人や二人は必要だろう。
勿論、僕は友人のつもりだ。友人というか信者だ。
笹宮様バンザイ。
だが、それとは別に同性の友達を得るのは悪く無い。それは人生の豊かさに繋がり、それは笹宮さんの神漫画に更なる深みを与えるだろう、多分。



まー取り敢えず笹宮さんのために僕が一肌脱ごう。
可哀想な笹宮さんのために





な、何で……私のどこが可哀想なの?





え……





……





自分が可哀想な事に気づかないのが逆に可哀想だよね


いくら冷徹な漫画製造マシーンな笹宮さんでも友人の一人や二人は必要だろう。
勿論、僕は友人のつもりだ。友人というか信者だ。
笹宮様バンザイ。
だが、それとは別に同性の友達を得るのは悪く無い。それは人生の豊かさに繋がり、それは笹宮さんの神漫画に更なる深みを与えるだろう、多分。



それに何か面白そうだし……


あらゆる娯楽を知り尽くしたこの僕に面白そうと感じさせる笹宮さんは凄い! さすが笹宮さん! ビバ・笹宮さん!



神城君……いちいち私につっかかってくるの何なの?





何言ってるのさ。僕達、親友じゃないか。親友の事を心配して悪い?





え!?





……親……友?


どこかむず痒そうに、どこか嬉しそうに頬を染める笹宮さん。
説明しよう。笹宮さんはその能力の全てを創作力に振っているため、コミュ力がめちゃくちゃ低いのだ。
僕が見ていないときっといつか悪いやつに騙されてしまうに違いない。
つまるところ、僕と笹宮さんはお互いに持っていない物を補えあえると言えるだろう。
その証拠に、僕は笹宮さんと出会ってからこのかた素晴らしく面白い人生を送れている。ビバ・笹宮!



まー取り敢えず笹宮さんの神漫画の魅力で友達を一人ゲットしようか


二人目からはマンネリになるのでまた別の方法を考えよう。
笹宮さんが知らないわけがないと思うが、マンネリはストーリーを作成する上で気をつけねばならない事だ。



え……で、でも、どうやって?





安心して欲しい。僕に考えがあるよ


教室内を見渡す。
ヒエラルキー最下層とは言え、王星学院は王星学院、その設備は一組のものと変わらない。
もう放課後になって少し時間が経っているが、家の者を待っているのか、まだ数人の生徒が残っている。



異性より同性の方がいいよな……変な男に引っかかって笹宮さんが変わっちゃうのは癪だし


そんな事になってしまったら僕はその辺の蛇口を捻るような気分でその男を一族郎党潰してしまうだろう。
理性的で温厚に見えるかもしれないが、やる時はやる男だよ、僕は。
幸いな事に、笹宮さんの神漫画は老若男女を問わない幅広い層に受け入れられている。きっと、漫画に耐性のない初心な少女なんてあっという間に虜にしてしまうだろう、麻薬みたいに。
そしていずれ少女は笹宮さんの神漫画を手に入れるために犯罪に手を染めていく事になる。漫画を読ませてくれなかった実家には何も言えず、ただ一人不安にかられながらも一時の快楽のためにその身を……



あの……神城君?





ん……ああ……ごめんごめん。
笹宮さんの神漫画の及ぼす影響についてシミュレートしてた





そ、そう……





神城君の漫画への情熱って一体……





まー取り敢えずあの辺から一人選ぼうか……。
ちょっと行ってくるよ





あ……


笹宮さんのシステムデスクよりも整頓されたデスクの上で荷物をまとめていた女の子の方に向かう。
三組のメンバーは皆、僕よりも戦闘力が低いのでどれとエンカウントしても問題ない。



どーれーにーしーよーおーかーなー





じい……遅いわね


ポピュラーお嬢様ツンデレ系?



おなかすいた……


何考えているかわからない気弱少女系?



にゃー


それとも、キャラ付けがあざとい不思議系?



まーどれを選んでも笹宮さんの神漫画でアヘ顔ダブルピース確定か。
個人的には三番目の女の人間耳の部分がどうなっているのか知りたい所だが……余り感性がずれてるとピースまで時間がかかってしまうかもしれないな。


これは遊びではないのだ。一番初めに成功を経験させ自信をつけさせてあげたい。
できればモブ子Aやミジンコみたいなちょろそうなのを選ぶのが一番なんだが……。



まぁ、面倒だしどれでもいいか……。
ダメだったらダメだったでその時考えよう


案ずるより産むが易しという言葉もある。何事も人生挑戦だ。
僕はその中でも一番面倒臭そうな女の方に向かった。



あ……神城君……





ちょっと君、いいかな?





……


椅子の上にちょこんと座っている黒服のネコ娘に声をかける。
アメジストのように透き通る紫色の瞳に、こじんまりとした身の丈に見合わぬ、黒のコートの外から見てもわかるくらいに盛り上がった双丘。
おっぱい大きい。高く売れそうだ。
プラチナ・ブロンドの髪から彼女が外国の血が混じっている事がわかる。猫耳が生えてるから猫の血が混じっているのかもしれないな。



その子、猫耳が怪しすぎて誰も話しかけられなかったみたいなんだけど……


笹宮さんが見ている前で無様を見せるわけにもいかない。
猫耳娘がこちらを向いたのを確認し、続ける。
多少変わった属性がついているかもしれないが所詮は猫、気負いはない。
猫ならうちでも十匹飼ってるし。



実はとても面白い物があるんだけど……本来ならいくら札束積んでも手に入らないものが今なら特別に無料だよ? これは乗るしかないでしょ





たまに神城君の度胸とコミュ力が羨ましくなるわ……


笹宮さんが固唾を呑んで見守るなか、渾身の勧誘に対して、猫耳少女が目を瞬かせて首を傾げる。



にゃー?


……この女、猫の鳴き声凄い上手いな。まるで本物だ。
笹宮さんが心配そうな表情で駆け寄ってくる。



か、神城君……大丈夫?





いや、別に。ちょっと予想外だったけど大丈夫だよ





え……


冷静になれば対応出来ない事もない。
そもそも、僕はマルチリンガルだ。理解できない言葉なんてミジンコの言葉くらいである。
一度深呼吸をして、美しい紫の虹彩に視線を合わせる。さー、こい!



にゃー?(何か私に御用ですかにゃ?)


よしよし、オーケー、見えてきた。
唇を舐めて湿らせ、別の言語で話す。



にゃあにゃにゃあ(実はとても面白い物があるんだけど……本来ならいくら札束積んでも手に入らないものが今なら特別に無料だよ? これは乗るしかないにゃ)





!?


