肩を揺すられ目を覚ますと、教室には目の前で俺を呼ぶ孝以外誰もいなかった。
辺りは鮮やかなオレンジ色の明かりに照され、部活動に熱心に取り組む生徒達の声が聞こえる。

眠気が覚めないまま筆記用具のみ鞄に入れ肩にかける。
孝を見ると、先に扉に向かっていた。

後を追おうと足を踏み出した瞬間、一枚の窓ガラスが突然耳障りな音をたてて割れた。
破片が辺りに散らばり、飛んできた一枚のガラス片で薄く頬が切れ鋭い痛みがはしる。

すぐに驚いた表情の孝が駆け寄ってくる。

悲痛な表情に変わった孝を安心させるよう微笑を向けると、ポケットから取り出したハンカチで優しく頬の血を拭われた。

ガラスの踏まれる音に目を向けると、一人の見知らぬ男が立っていた。
真っ黒なコートと真っ黒なハット。
怪しい男の姿に、俺は孝を背に隠すように前に立った。

顔を上げると、アフラは服装に反し明るい色の髪をしていた。
貼り付けられたかのような笑みでこちらをまっすぐ見ている。

心が読まれたかのように的確に考えていたことを当てられ、咄嗟に半歩ほど後退してしまう。

ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべたアフラにまた考えを読まれる。

視線が全身を舐めまわすようなものに代わった。
そのせいか、先ほどから眉間によっていた皺が更に深いものに変わる。

友人になりたい、ということか？
それほど怪しい人間じゃないのかもしれない。