僕達の住む町。
始まりの町に、ある日突然幾つもの真っ白な何かが降り注いだ。



何だあれは……


僕達の住む町。
始まりの町に、ある日突然幾つもの真っ白な何かが降り注いだ。



おいっ、何か降ってくるぞっ!!





何よあれっ、此方に来てるっ!





このままじゃ当たるぞっ、逃げろっ!!





急げっ!!荷物なんて置いていけっ!!


普段は穏やかな町の人々の悲鳴や叫び声、慌ただしい足音や何かが割れる音。
流れ星のように綺麗でいて、火を纏う隕石のように恐ろしい謎の光に恐怖した僕達は、建物の中へ逃げ込み身を守るように縮こまる他無かった……。
暫く机の下でギュッと目を瞑り耳を塞いでいたが、微かな物音すらしないことに疑問を抱き身体を起こす。
震える足を何とか立たせ椅子にかけておいた真っ黒なローブを羽織りフードを被る。
そのまま玄関に近づき、少しだけ開いた扉から外を覗くと何人もの人影が見えた。



何だ此処は……





町……?


何か話しているようでざわざわと声が聞こえる。
町の人たちが危険がないと分かり外に出始めたのかもしれない。
そう思ったが、よく見るまでもなくその人々の様子はおかしい。
何かが降ってきた空よりも、特に変化の無かった町の方が気になるようで異様に周りを見回している。



おいっ!





うわぁっ!!


観察を続けていると、すぐ近くにいた男に気づかれ家から引きずり出された。
痛い、放して、と抗うがまだまだ子供の僕とその男では力の差は歴然で、大きな手で両腕を掴まれてしまえばたいした抵抗もできない。
神の加護を受けたこの町では痛いとは言ってもそれほど酷いことは出来ないけど、何より何故か怒っているこの男や段々と周りに集まり始めた他の人々が恐ろしかった。



お前、此処の人間だろっ!
此処は何処だっ、何で俺達はこんな所にいるっ!!





っ……わ、わからない





何か知ってんだろっ!?


矢継ぎ早に話す男の質問の意味も、その答えも、本当に僕にはわからなかった……。
何かを言おうとは思うけど唇は勝手に震え、頭は真っ白で何も思い浮かばない。
助けて……っ。



放してあげなよ、怖がってるじゃん


恐ろしい顔をした男の後ろから、一人青年が近づいてきて男に話しかけた。
男は掴んだ僕の腕を放さないまま後ろを向いて会話を始める。



ステータス見ればわかるだろっ、こいつは俺達とは違うっ!





だから?乱暴な扱いをすることと何の関係があるの?





NPCだぞっ?





そう書かれてるだけじゃん。俺達と同じ人なんじゃないの


NPC。
僕達の頭上には体力、魔法力、名前、職業。それと、NPCという文字が浮かんでいる。
この文字の意味は神様以外誰も知らない筈だが、目の前にいるこの人達にはわかるらしい。
自分達とは違うって言葉もこの文字の事だと思う。
今周りにいる人達は皆、NPCではなく冒険者と書かれている。



お待たせーっ!





ってあれ?俺がちょっとお花摘みに行ってる間に何してるの?





子供の声?





何処から聞こえてるんだっ!?


唐突に頭に響いた声が言い合う二人の会話を遮った。
この若い男の子のような声は昨日聞いたばかり、神様の声だ。



ねぇ、リクトに何してるのさ……





っぅあ゛ぁあああああぁ!!


明るく登場した神様の声はいつの間にか暗く沈むようなものに変わっていて、気がついたら目の前に立っていた男の両腕が捻れ真っ赤になっていた。
突然腕を離された僕はその場にへたりこみその姿をただただ見上げる。
男の悲鳴が鼓膜に響き、騒がしい周りの声の中捻れる腕からは骨が軋むような音も聞こえ、恐怖に涙が浮かんだ。
周りの人達、言い合いをしていた青年も目を見開いて立ち尽くしている。



……か、神様っ、やめてっ!!





おっけーやめるーっ


掠れた声で何とか叫ぶと、あっさり聞き入れてくれた神様はまた明るい声に戻った。
男の腕は鮮やかな光に包まれ一瞬見えなくなったと思ったら元の姿に戻っている。
安堵の溜め息を吐くと同時に、何故神様がこんなことをするのかわからなかった。
町の中では暴力を無効化し、モンスターが入らないよう魔法をかけ、何より僕達を救ってくれた優しい神様がどうして……。



冒険者の皆っ、待たせてごめんね。俺が君達を此処に呼んだ神様だよ





神……っ?





神って何だよ





ゲームマスターじゃね?





こんな子供が?


今まで何も言わずただ成り行きを見ていた人達も、神様の登場にざわめき始めた。
同じ言語の筈なのにわからない言葉が多数行き交っている。
この人達も異世界から来たのか……?



そう、神。さっきみたいに、NPCを虐めたら駄目だよー?この世界の大事な住民なんだからさっ





この世界って、此処は何処なんだよっ





家に帰せっ!!





どうやって帰るのっ?





そうだね、説明がまだだった……


はしゃいだような声で話していた神様が突然落ち着いた声を出したことで、皆ビクリと肩を揺らし辺りはシンと静まり返る。
明るく華やかな声音ばかりだった神様と違い、今日の神様はなんだか怖い。



ようこそっ、選ばれし冒険者達っ!





君達にはこの世界をより良い自由な世界にするため奮闘してもらいたいっ。
人生をやり直したい奴、元の世界に戻りたい奴、この世界を謳歌したい奴、叶えたい思いがあるならこの世界を変えろっ!!


神様の言葉は静かなこの町に響き渡り、それを皮切りに冒険者と呼ばれる人達は喚声をあげたり戸惑いただ立ち尽くしたり、多様な反応を見せる。
僕には神様が何をしたのか、冒険者達が何を感じているのか、僕達はこれからどうなるのか、何一つわからなかった。
