東和食堂
東和食堂
マスター達やけに遅いな。やっぱりあいつ等に捕まっちゃったのかな……
東和食堂の店内ではイライラした様子でカジが店内を歩き回っている。
その時何処からかけたたましい発信音が聴こえてきた。
うわっ！なんだ、この音は？
！？
ヤマサキがコートの内ポケットから小型のノートパソコンを取り出した。
どうやら発信音はこのパソコンから聴こえているようだ。
ノートパソコンを開き、キーボードを素早く操作するヤマサキ。
ハルちゃん達、高和山にいる……
パソコンのディスプレイから目を離さずにヤマサキがいう。
先生、どうしてそんなことがわかるんだ？ 一体何ですかそれは？
ヤマサキの背後からパソコン画面を覗き込むカジ。
画面には精細な地図が映し出されている。
そしてある場所を示した赤いポインターがゆっくりと点滅している。
ヤマサキはハルトの脳に埋め込まれたシリコンチップの現在地を衛星測位システムを利用し確認しているのだ。
今ここにハルちゃんがいるっていうのかよ、先生？
コンピュータの画面の下部には警告の赤い文字が左右にスクロールしている。
そうだ、そして…… 殴られて頭に強い衝撃を受けたのかもしれない。今は酷い頭痛で苦しんでるはずだ
ヤマサキはキーボードを叩き続ける。
何いってんだよ、先生、さっぱりわかんねえよ……
混乱した様子で頭を掻きむしるカジ。
ここは、高和山の中腹だろ、確か殺人教団の施設があった場所じゃねえか。なんでこんな所に、それに先生なんだよ、なんでこんな事ができるんだ、オレにはさっぱりわからねえよ
"system restore completed
successfully"
それまで激しく動いていたヤマサキの指が突然止まった。
送信完了。ひとまずこれで頭痛は治まるはずだ、トラウマのブロック機能は外した、これで記憶が戻るが……仕方ない、耐えてくれ
ヤマサキがつぶやく。
カジさん、車一台用意できるか？
車か。その前にオレに分かるように説明してくれよ。これはどういうことなんだ？ 急にしっかりしちゃって、まるで別人だ、先生、いったいあんた何者なんだ？
すまん、カジさん。あんたを騙すつもりじゃなかったけど……
なんか、深い事情がありそうだな、先生とハルちゃんには
こうなれば全てを話すべきだな。カジさん、あんたの協力が必要だ。
もう昔の話になるが……
ヤマサキはカジに告白する。六年前ハルトに行った手術……。
そう、ケンイチをハルトとして再生したのはこの男ヤマサキであった。
……、なんてこった。それでボケた振りしてこの店に来て、ハルちゃんの様子見に来てたって訳か
私は政府の極秘プロジェクトに携わった人間だ、その事で追われている。身を隠す必要があった。しかし日を追うごとにハルトの事が心配になって、いてもたってもいられなくなった。
わかるよ、先生……
エイジを再生する事、あの時の私にはそれが全てだった。だが今となってはハルトが息子みたいなもんだ
……あのハルちゃんにそんな壮絶な過去があったなんて、信じられねえよ。それに先生もずいぶんと辛い思いしたんだな……。頭ん中混乱してなんて言ったらいいかわかんねえけど、息子さん残念だったな
その時、カジの携帯電話が鳴った。
もしもし……、お前キタニか？───え！ 何だって───わかった。偶然だがちょうど今からオレもそこに向かうつもりだった───じゃあな
電話を切って、ヤマサキに向き直るカジ。
車だったな、先生！ まかしときな、それと少々武器もいるな
……！？
今度はヤマサキが驚いた顔をした。
さあ、行こう、先生、高和山に、ハルちゃんとマスター助け出そうぜ！
