彼氏の前世は
源義経
彼氏の前世は
源義経
下校中、商店街にある、うちの学校の学生がよくいるバーガー店の前を通った時、



あははは


と笑う、私の残念な彼氏、経次郎が店内にいるのが見えた。



迎えに来ないと思ったら、こんなところで何してるわけ?


いつもは一緒に帰るのに、今日はいつの間にかいなくなっていた。



校内探しちゃったんだけどね……。


おかげで遅くなったんだけどね……。



誰といるの?


ちょうど柱の陰で相手はみえなかった。
ふと、前世でのことを思い出してしまった。
彼は源義経で、私はその側室の静御前だった。
静御前は公家とかの前で踊るような白拍子(歌いながら舞う人)で、ヤツのところに嫁に行く必要なんてまったくないのに、求められて嫁になった。



ボクが好きって言ったのはキミだけなんだ。





他の子は死にたくないから来ているだけ。ボクは避難場所のようなものだから。


と、本人は言っていた。
時代が時代だったから、敵将の娘を助けるためとか、そこらの女子を助けるためとか。
でも、



すまなかったね、娘さん。


と、言うだけで、



嫁にしてください。





私も……。





私も~。


というのがわんさか来たのを思い出した。



まさか、いなかったのは
女と会うため?


私はそっと、店内に向かった。



ちょっと小腹も空いたし、
喉も渇いたから。





別に相手が誰だろうと、
私には関係ないんだし。


いや、あるけどさ……。
怒るわよ。
私はヤツの彼女なんだから。



様子を見るだけ。
そしてポテトを食べるだけ。


だから私は店に入るの。



気になってるとか、盗み聞きしようなんて、これっぽっちも思ってないんだからね。





いらっしゃいませ~。


明るい店員の声。
別にいいんだけど、もうちょっと声を小さくしてもらえないかしら……。
そっとヤツのいる席の方を見た。



……だと思うんだよね。
どうかな?





うん、まあ。
ボクもそう思うけど……。


聡士?



……。


なんで今彼と元彼が、仲良くバーガー食べながら話してるわけ?



まさかこいつら、
デキてるんじゃないでしょうね?


ありうる。
ヤツなら十二分にありえる……。
聡士の前世は長宗我部元親。
戦国武将も多かったって聞くもの。
元親は姫若子とか言われてたみたいだし……。
じゃなきゃ、なんでコソコソ会ってるわけ?



私と付き合う前にも、二人で会ってたみたいだし……。


1年の時、ヤツと聡士は同じクラスだった。



行って確かめるか?


とりあえずカウンターに行き、ポテトとシェークを買い、近くの席に行こうとした。



盗み聞きするわけじゃないんだからね。
私は小腹が空いただけよ。





ちょうどいい席があるけど、
人がいるみたいね。


隣の席で、間に植物があって向こうから見えなさそうなベストな席には荷物が置いてあった。



なんか、見覚えのあるカバンね?


もやっと何かを思い出しそうになっていると、



まったく、お前というヤツは。


忍者のようにコイツが現れた。



弁慶!


ちまいから目に入らなかった……。



今は慶子だ。
その名で呼ぶでない。


昔は義経の家臣の武蔵坊弁慶だった。



あんた、こんなところで
何してるのよ。


あのカバン、こいつのか……。



静かにしろ。
殿に見つかる。





盗み聞きしてるわけ?





人聞きの悪いことを
言うでない。
ただの警護だ。





殿には言ってないがな。





黙ってやってんなら
盗み聞きよ。





きさまのような
いかがわしい理由ではないわ。





適当な理由をつけて、
まとわりつくのやめてくんない?
彼女は私なんだけど。





ふん





なんなわけ?
そのクソ生意気な態度は。





きさまは何百年経とうが、変わり映えのないことを言うのだな。脳みそにカビでも生えてるんじゃないのか?





なんですって!





まあまあ、静香先輩♡
落ちついてくださいよ。





なんであんたが
ここにいるわけ?!


こいつは聡士の今カノ。
私から聡士を盗った女。



でも、聡士とは義経だと勘違いして付き合ってただけから、むしろ良かったんだけど……。


これは負け惜しみとかじゃないからね。
ホントにマジで……。



通りかかっただけなんですけど、なんか面白そうな感じだったから来ちゃいました♡





「来ちゃいました♡」
じゃねえよ……。





この子は誰ですか?


弁慶をニコニコと見て、聡士の彼女は言った。
この二人ははじめて会うのか?



こんなナリしてるけど、
あんたより先輩よ。


慶子は経次郎と同じクラスだった。



そうなんですか、
スミマセン。





いいわよ。
別に……。





「わよ」?


誰よ?



ありがとうございます。先輩。
お名前を教えてもらえますか?
私は柚葉です。





慶子……。


それまでふてぶてしい態度だったのに、急にゴスロリに似合う、おとなしそうな女の子になった。



しかもなんか
ちょっとだけ
かわいいし……。





慶子先輩ですね。
よろしくお願いします。
私のことは柚葉って呼んでくださいね。





わかった……。





柚葉……。





はい♡





……。


なんなんだよ、こいつら!
私にはそんなこと、一度だって言ったことあるか?!
