瞬く間に奪われた赤ずきんの命、メガネの男襲われた後遺症の余韻で息が落ち着かずに何もできずいた自分に後悔していた・・。



ぐっ・・あっという間じゃった・・、
こんなあっさりと目の前で赤ずきんの命を奪われてしまうとは・・なんてこと・・。
・・・赤ずきんや・・すまぬ・・こんな老いぼれの命の方こそ差し出すべきなのに・・なぜ。


瞬く間に奪われた赤ずきんの命、メガネの男襲われた後遺症の余韻で息が落ち着かずに何もできずいた自分に後悔していた・・。



しかし、この男のチカラは一体なんなんだ、かようなチカラ魔女達の中でも奇異なモノ・・なぜ教会の者が保有しているのか・・。





難しそうな顔して睨むなよ婆さんよ、しおれた顔が更に枯れた果物のようにしぼむぞ。





・・・・・。





どうやらこのチカラに疑問をお持ちのようだな・・・孫の冥途の土産に語ってやろうかな、
・・まぁ、障害が有ったが無事任務を果たせそうで気分がいい、勝手に語らせてもらってババアの反応を見て愉悦にひたるか。


状況に余裕ができたメガネの男は勝ち誇った様子で語り始めた・・。



俺は教会の魔女狩り専門の戦闘傭兵”狼”という部隊に所属している、これまでも多くの土地で魔女を殺し、社会貢献できる魔女は今回のように生け捕りしてきた訳だが。





それに何の関係がある・・。





おいおい焦るなよ、今じっくり説明してやるからよ・・。





魔女の命を奪った後、採取する物がある・・それこそ外気に接触しないよう慎重にな・・。
その採取する物こそこのチカラの根源である”魔女の血”だ。





”魔女の血”じゃと?





ああ、とある魔女の研究結果があってだな・・魔女のチカラは血統因子・・つまり遺伝で決まる。
例えば、体から火を吹くチカラを持つ魔女がいれば、そのガキも同じチカラを持って生まれてくるという訳だ。





だが今のは人間と魔女が親だった場合だ、例外がある・・魔法使い女(魔女)と魔法使いの男(魔男)を両親にもつガキは色濃く違うチカラを持って生まれてくるそうだ。





そこに興味を持った欲深い教会の人間は、その極点にどんなチカラがあるか試した・・。
研究の内容は・・想像したくも無いが、研究の末、教会が極点と位置づけるチカラを生み出す母体を作り出した・・もはや形は人間ではなく魔物だったなあれは・・。





・・狂ってるよ・・あんた達は。


教会が秘密裏に行っていた狂気染みた研究に、魔女であるおばあさんも恐怖と不快感を滲ませたように、ボソっと言葉を投げかけた。



その母体の欠片を武器などに埋め込んで使うんだ、交換式で使い捨て、黒い煙状の物質を吐く・・意外と扱いも難しいな・・ククク。


そんなおばあさんの感情を踏みにじるような勢いでメガネの男は言葉を被せたが、部屋を覆っていた黒い物質も消え去ったためか、急に話を終わらせた。



さて、おしゃべりもここまでだ。
来てもらうぞばあさんよぉ!!





く・・ここまでか・・。


おばあさんがメガネの男に連れて行かれることを確信し諦めたその時だった・・!!



ぶはっ・・!?


メガネの男の顔面に直径16cmのホールケーキが命中した!



やりましたぞ母上!!
母上のケーキが憎っき教会の傭兵にヒット!!


タンスの影からヒョコッと上半身だけを見せガッツポーズをしてるのは、なんと死んだと思われていた赤ずきんでした。
母上もこんなケーキの使われ方は流石に予想していなかっただろう・・。



どうだ、母上の作ったケーキは美味しいだろう、食いしん坊の狼さんよ?


赤ずきんの挑発は続いた・・。



無事じゃったか赤ずきん!





なぜだ、なぜ生きてるんだあのガキ・・!?
確かに至近距離で命中したはずだぞ。


挑発の効力か・・メガネの男は食い意地を張り顔に付いたケーキをペロリと食べた。
それでも残るクリームは服で拭った・・露わになったその顔は明らかに動揺しているようだった。



動揺している狼さん教えてあげよう、その暗黒物質については何もあなた達教会だけのモノではない。





なんだと、そんな情報どこにも・・!





もちろん、魔女の社会でもタブー中のタブーなもんで、書類になんか残さないのよ。





現時点、人類が作り出せる暗黒物質は簡単に言えば、
”すべてが有るが故のチカラ”混沌と
”すべてを無くす、-(マイナス)の極致”無の2種類よ。
この2つが原子レベルで空間を破壊し光源すら無くすことによって暗黒を生み出すとされているということだ(厨ニ臭)





少量の生産は可能とされていたけど、さすがは教会の組織力、大量に人体から精製する技術を作り出すとは・・。





つまり、我々教会の扱えるチカラはお前の言う”混沌の暗黒物質”という訳だな・・。





その通り、そして私は”無の暗黒物質”を生み出せる・・生まれつきな!!





くっ・・なんてやつだ!!
さっきはこの二つをぶつかり合わせて中和させることによって無事でいたのか・・!





物分りがいいわね・・当たりよ。


そう言うと、赤ずきんの指先から黒い球体の小さな空間が生み出されれ、周りの空気を吸い出し始めた・・。



あれが、奴の暗黒物質・・。
だが規模が弱い・・今度は油断せず、強く踏み込めば・・命を捕れる!


心の中でそうメガネの男は決断すると、再びチカラをまとわせ赤ずきんの命を奪うべく突っ込んでいった!



ん?なぜだ・・チカラが抑制される・・!





ふっふっふっ・・・
ドウシタノカナーー?


先ほどの部屋を覆うほどのメガネの男のチカラは威力を落としていた・・それは焚き木の残り火のような少量の煙を発する、なんとも迫力のないモノだった。
そのような状態でもお互いからは周りの気流をかき乱すような強力なチカラが発せられる・・!
だが互いのチカラがぶつかり合った時、衝撃は無く衝突点は両方のチカラは中和し合っていた。
そして、短い衝突の後・・あっけなく決着はつくのであった。



な・・なぜ・・なぜだぁ!!


メガネの男はチカラ負けし赤ずきんの暗黒物質に吸い込まれそうになったが、持ち前の運動能力で命だけ助かったものの、暗黒物質にぶつかった肩は無残にえぐられ、血が湧き出していた・・。
「なぜ・・」メガネの男は様々な疑問が頭の中で交差していた、
なぜ・・うまくチカラが出せないのか。
なぜ・・ガキにこんなチカラがあるのか。
なぜ・・俺はこんなところで膝を折っている?
そんなメガネの男を横目で見つつ赤ずきんがメガネの男の心の内を代弁するかのように話始めた。



チカラがうまく出せなかったのは・・、
さっき、ケーキ食べたでしょう?
その効能よ・・。





は?・・ケーキ!?


赤ずきんがメガネの男にぶつけた、母上作のケーキの事である。



おかしいだろっ!!
なんでババアのお見舞いのためのケーキになんでそんな効能があるんだよ!!





「魔女の本文は老いてから」って言葉知ってる?
その言葉の通り、魔女は老いることによって自身の魔力をあげていくのよ。





けど、その増幅した魔力は高齢者の体には耐えきれないものでね、こうやって薬とかで抑えるって訳。
母上のケーキの正体は嗜好品と見せかけて、魔力抑制ケーキでしたー。





・・・あの世間話はなんだったんだ・・。





見ず知らずの派手な服装した人に、ペラペラすべてを語るわけないでしょ・・。





・・・この、クソガキ!!


満身創痍だったが、怒りのあまりメガネの男は赤ずきんに殺意で我を忘れ、とびかかってきた!!
・・次の瞬間だった!
銃声が響いたのと同時に、メガネの男の手を銃弾が貫いた・・!



ぐあああ!!誰だ!!


声を荒立て、メガネの男はドアから家の外を見るとそこに立っていたのは・・。



大丈夫か!?ばあさん!
この不審者め、2人から手を退け!


そこに立っていたのは、村で猟師をしているおじさんでした!



この声は!!





猟師のおじさん!
(危なかった・・やられてしまうかと)


メガネの男はよろけながらも姿勢を持ち直し赤ずきんを睨めつけた・・。



言葉に甘えて・・逃げさせてもらうぞ・・これで・・終わりではないぞ・・・くっ!


そう言葉を吐き捨てて、メガネの男はすばやくこの場から立ち去って行った。



教会の傭兵・・”狼”か・・。
恐ろしい奴らに狙われてしまったわね。


開いたままのおばあさんの家のドアを眺めつつ、赤ずきんはこれから先、近い将来激突するであろう敵の事、周囲の平和をねがいつつ思考するのだった・・。
こうして、幼き赤ずきんと教会の傭兵”狼”との戦いの火蓋が切って落とされたのでした。
赤ずきん談話”序章”
(完)
第一話へ続く・・・。
