それはともかく。
それはともかく。



クリスマスねぇ……私の専門は科学史なんだけど





良いじゃない。もともとあんた自身は雑食でしょ!


私が雑食でも仕方ないでしょ! と抗議する声も聞かず、従姉妹は続きを垂れ流し始めた。
従姉妹はその後もいろいろクリスマスについて教えてくれた。
十二月二十四日の夜、大人は贅と酒池肉林を尽くし、子供は早く寝たそうだ。
赤い服を着た老人が、貧富の差関係無く、良い子であればのべつ幕無しにプレゼントを配っていたからだ。寝ていないと老人は来ないとか……何か、二〇一四年に流行った小さいおじさんみたいだな。



……空を駆ける赤い服の老人ね


私たちの世代では消えた御伽噺だ。聞いたことも無い。祖母の代には在ったのだろうか。……って、言っても。防護服も無しに空を駆ける老人なんかいるはずも無いし、赤い防護服なんて明らかに怪しくて奇怪なものも耳にしたことは無い。とっくに絶滅危惧種どころか絶滅してしまっているんだろう。



……


子供たちの欲しいものを届ける老人。
もしもこんなものが存在していたら────現況の子供たちは何を求めるのだろうか。
玩具か? 噛み応えの在る食事? 気兼ね無く暴れられる広い空間? あとは……何だろう。



甘えられる、両親とか?


私は頭(かぶり)を振った。
もうすぐ、箱舟を作るらしい。この星を棄て、新しい星を探すのだとか。
計画自体はずっと在って、数年前から現実化した。同じころ、新生児は皆、生体データとなった。肉体を破棄することによって、人員数を最大限増やせるから。
直に、肉体の在る成長途中の子供たちにシフトして、やがて私たちになるのだろう。



……


もしも、もしも、赤い服の老人がいるならば。
思い切り踏み締めて、爪を立てて、走り回れる大地を。力いっぱい機械を通さずとも吸える酸素を。
彩
|
い
ろ
|
の
付
い
た
、
う
つ
く
し
い
、
世
界
を
。
私は、珈琲を飲む手を止めた。カップをテーブルに置くと、仕事に戻った。従姉妹はすでに帰宅しているだろう。
私は箱舟には乗れないかもしれない。ここで、空も老人にも会えず、死ぬだろう。
けれど。
子供たちは。



……


それまで仕事に従事しよう。
奇しくも、今日は十二月二十四日。
再び、赤い服の老人が、空を駆けられるようになりますように。
従姉妹に教わった。クリスマスは、こう挨拶するらしい。



メリークリスマス


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