そう叫び声を上げると勇者は魔王に斬りかかった。

　勇者の必殺技が決まる。すると魔王は叫び声をあげ、そのまま煙のように消えてしまった。

　こうしてこの世界は勇者の手により、魔王の手から救われた。
　だが、一つ問題がある。

　勇者には魔王を倒してから先のアテがなかったのだ。

勇者ラーメン

　それから半年後。勇者は厨房で一人ドキドキとしていた。

　そう言って勇者は一人厨房を歩きまわる。

　勇者こと須田島　烈（すたとう　れつ）は現実世界からこの異世界に召喚された青年だ。彼は異世界に来るまで、ラーメン屋でバイトをしている極普通の青年だった。

　それが異世界に召喚され、突然勇者の役目を任され、魔王討伐の旅に出るハメに。最初はあまりに予想外の事態に「不幸だ」と嘆いてたが、次第に使命感を感じるようになり、勇者らしく悪事を働く魔物達を倒していった。そうして遂に勇者は魔王を倒したのだ。

　だが魔王を倒してから何をすればいいのか、勇者にはアテがなかった。今更現実世界に戻っても異世界に行っていた空白期間を説明できないし、異世界に留まれば金は十分ある。しかし魔王を倒してからやる事がない。さてどうしたものか。

　そこで勇者はきまぐれで異世界にラーメン屋を出店する事にした。その名も『勇者ラーメン』実にわかりやすい。

　今日がその開店初日。前日にチラシを配ってあるのでお客さんが来ることは間違いない。だが今、別の問題があった。

　勇者は町の製麺所にラーメンの麺を特注したのだが、その麺がまだ届いていなかった。本来ならもっと早く届いているはずなのに。勇者は焦りのあまり冷や汗を流す。

　開店初日からこれでは勇者ラーメンの看板に傷がつく。
　もういっそ製麺所に麺を取りに行こうか。冒険の途中で使えるようになった転移呪文（使うと寿命が一年縮む）を使おうか迷い始める。
　その時、店の裏口からノックが聞こえてきた。

　勇者は裏口を開けるとすぐ製麺所のハジマさんを中に入れた。届けられた麺は特注通りの極細麺だ。

　そのままハジマさんは帰っていった。
　開店時間まで残り十分。

　勇者は自信満々にそう口にした。
　そしていよいよ勇者ラーメンは開店時間を迎える。早速ドアが開き、客が姿を現す。

　しかし中に入ってきたのはハジマさんだった。

　勇者は内心舌打ちしながらハジマさんに料金を支払った。

　再びハジマさんが帰っていく。
　だがそれから客がなかなか現れない。もう開店してから三十分は経っていた。

　やはり異世界でラーメンなんて流行らないのか。勇者は気が遠くなりそうな気分だった。このまま客が一人もこないのではないか。そんな心配が頭をよぎる。

　勇者の中で焦りが最高潮に達する。
　その時、店の入口が開いた。

　勇者の目が見開かれる。
　そこに立っていたのは……。

ハジマさんだった。
ショックを受け、勇者は崩れ落ちそうになる

勇者は完全に意気消沈していた。
しかしそれでも最後の気力を振り絞りハジマさんの応対をする。

そう勇者が問うと、ハジマさんの後ろから一人の男性が姿を現した。

　初めてのお客様だった。ハジマさんは客を連れて来てくれたのだ。勇者は感動のあまり涙を流しそうになる。

そのままハジマさんが帰っていく。
勇者は改めて客に声をかけた。

　それから勇者がラーメンを作っていると、どんどんとお客さんがやってきた。いきなりこんな客が増えるなんてどういうことだろう。もしやと思い昨日配ったチラシを見てみる。

　チラシには開店時間が一時間遅く書かれていた。単なる誤植。それこそお客さんがやってこなかった理由だ。

　次々とラーメンを客席に置いていく。客達は一斉にラーメンをすすった。

　異世界の住人にラーメンは受け入れられるのか。客達の声に勇者が耳を澄ませる。

　客達は一斉に勇者のラーメンを褒め称えた。

　思わず勇者の目に涙が浮かぶ。
　すると最初に入ってきた客が勇者に問いかけた。

　その問いに対して、勇者は自信満々に答える。

　その一言に客席の空気が一変する。

　今まさにチャーシューを食べていた豚のモンスター、オークは顔が真っ青になった。

　勇者ラーメン繁盛への道のりは長い。

了