絵美が俊之に訊いた。



ねえねえ、山ノ井君って、
誰か好きな女の子って居るの?


絵美が俊之に訊いた。



え!?何だ?急に??





いいじゃん、教えてよー。


由佳も絵美に加勢する。



教えても何も、
何で高校になったら、
急にそんな事を訊いてくるんだよ?





だって、山ノ井君、
中学の時はちょっと、
近寄り難い感じだったじゃん。





高校に入ってから、
すごく雰囲気が変わったよね。





うん。
とても優しそうな感じになったよ。





それと俺が誰を好きかってのは
関係があんの?





だから、前から訊きたかったんだけど、
中学の時は訊き辛かったから~。





ああ、そういう事か。





ねね、誰が好きなの?





って、何で俺がそんな事を
教えなきゃなんねーの!?





いいじゃん、教えてよー。





んー。





どうしたの?





いや、どうしたもんかと思ってね。





どうしたもんかって、
どういう事?





俺は川村の事が好きなんだけど。


俊之は少し照れ臭そうに、そう答えた。



え!?私!?





だって、好きな子に
誰が好きかって訊かれて、
他の子の名前を
言える訳がねーだろ。


絵美は俯いて、黙り込んでしまった。
由佳も俯いてしまう。
絵美は少し照れている様な感じだったが、
由佳はちょっと悲しそうだった。



俺、ずっと、
川村の事が好きだったんだよ。


絵美はまだ、俯いて黙り込んでいた。



良かったじゃ~ん、絵美。


由佳は気丈な振る舞いで、絵美に声を掛けた。



この際だから、
俺も腹を括って言うよ。
川村、良かったら、
俺と付き合ってくれないか?


絵美はまだ、俯いて黙り込んでいる。



本当はもう少し経ってから、
告ろうかと思っていたんだけどね。
こうなったら、もう、
言うしかねーよな。





少し、考えさせてくれる?


絵美は俯いたまま、小さな声で訊いた。



うん。
余り期待をしないで待ってる。





え!?


絵美は顔を上げて、俊之に目線を戻した。



期待をするとフラれた時、
きついからなぁ。
それに俺がそうやって
ダメージを減らす事が出来ると判れば、
川村も遠慮無く、
結論を出す事が出来るだろ!?


俊之は絵美に優しい眼差しを向けて言った。
そして少し、間を空けてから続ける。



それにOKだった場合は喜びが倍増。


俊之はそう言いながら、悪戯な笑顔を作った。



それじゃ、待ってるから。


そう言うと、俊之は教室へ戻って行った。
絵美と由佳は廊下の柱の脇で俊之を見送る。
窓の外では、花を散らしたばかりの桜の葉が、
そよ風に揺れていた。
