どこに向かって僕の人生は加速しているのか
どこに向かって僕の人生は加速しているのか
あおい銀行。
床がキラリと光るオフィス。
空けられた金庫。
草野浩介(29)が銀行員A(29)と話している。



では、深夜1時から6時までは警備会社管理で誰も外から入れない、と。それは社員であってもですか?





はい。完全赤外線オートロックなので、あそこの出入り口ですが、仮に外からパスワードを入れても、敷地内に入った瞬間警報が鳴ってしまいます





なるほど。じゃあ完全な密室状態なわけですね。では金庫のナンバーをご存知の方は?





はい、支店長か次長だけのはずですね。あと専用のキーも二人しか持っていません





はあ、ではお二人に今お会いすることはできますか?





申し訳ありません。支店長は昨日からグループ総合の決起大会で博多に出張中でして…





そうですか。では次長さんは?





はい、それが内海次長はご自宅にお電話しても奥様から昨晩から家に帰っていないと言われまして…私たちもどうしたらいいのものか…





そうですか…失礼


花園に耳打ちする草野。



内海の持ち逃げって事で解決じゃないですかコレ?わかり易すぎでしょ





そうねえ…うーん





わかりました。では内海次長さんにまた連絡してみて下さい。場合によっては捜索願いも承りますので





はい





それにしても、清潔感たっぷりの職場ですね。塵一つ無い…お掃除が行き届いてるわあ





はあ





何だろう、洗い立てのシャツと同じ匂いがしますね





・・・


受付で淡々と仕事をしている咲。
膝上の拳が震えている。
昨夜のあおい銀行。
両手に袋を抱えてやってくる真。
血だらけの内海の死体を一瞥。
脇で蹲って震えている咲。



ごめんなさい…私、こんな事になるなんて…





大丈夫何も言わないで。まず簡単な着替えを持ってきたんで急いでこれに。いいですか?咲さんが今やる事は一つだけ


袋から掃除用具一式を取り出す。



大掃除です。死体はあとで車に運びます。その前に朝までにこの部屋を二人で大掃除するんです。埃一つないくらいに。念入りにね


真は薄目を開けながら毛布と縄で内海を一包み。
その上から寝袋に彼を仕舞い、端によせる。
固まったままの咲。



早く、時間が無い。どんどん出来るところから掃除していって下さい。あと机のものを退かす際に書類に血が染みてないか、念入りにチェックして


震えながらゆっくり動き出す咲。



…私が言う事じゃないですけど、どうしてそんなに…平気で動けるんですか?





多分、生前の彼に会った事がないからでしょう。それと僕小学生のとき、家の前で跳ねられた猫の死体を一人で処理した事があるんです。そのときもこんな風に念入りに重ねて、手に持って裏山に埋めに行きました。手際良くやって母親に小遣いもらいました





…強いんですね





いや、全く知らなかった猫なんで情が沸かなかっただけですよ。今回もその時とそんなに変わりない。もうだいぶ冷たくなってきてますしね


黙々と床を拭き始める真。
つられる様に咲も掃除を始める。
続く
