正門。
待っている吉村貴子とやってくる松嶋咲。
正門。
待っている吉村貴子とやってくる松嶋咲。



ごめん、お待たせ





ううん。それよりごめんね、今回ハズレだったわ。みんなメッキ剥がれたクズばっか。咲は変な男寄って来なかった?





いや、ちょっと名刺渡してお話しただけかな





ホント?ごめん私邪魔しちゃった?





あ、ううん。大丈夫





あそう?ねえねえ、どっかでお茶しない?徹底的に事情聴取したる!


道路。
行き交うヘッドライトを浴びながら歩く真。
咲の名刺を見ている。



どちらの名前でお呼びしたらいいですか?





花蓮ただいま…花蓮?


病室。
フルーツを持って部屋に入ってくる真。
ベッドに花蓮の姿は無い。
近づいて見ると無数の彼女の抜け毛が落ちている。



…もうダメだ


シャワールームで愛花蓮は声を潜めて泣いていた。
排水溝に詰まる大量の髪の毛。
鏡に映る自分の10円ハゲに身を震わしてのたのだ。
医務室。
医師と向かい合う真。



ここ数ヶ月、比較的花蓮さんの体調が落ち着いてきたのでプレデニン、免疫抑制剤の量を減らしていたのです。脱毛はその影響でしょう





すいません。ちょっと言ってる事がよくわからないんですけど、脱毛も危険な病状じゃないんですか?





これまで何度も説明しております通り、妹さんのかかっている病気、全身性エリテマトーデス、通称SLEは難病・膠原病の中でも特定疾患の部類に属します。患者さんによって病状、進行度は十人十色です。花蓮さんの場合は関節炎、腎病変、血液学的異常、そして光線過敏性。以上の4つが絶えず予測不能な周期で彼女の体の中で蠢いているのです。脱毛症状はそれらと反比例して起こるものでして、比較的軽度な症状といえます。体調面が安定期にある今、安易にプレドニンを強くして体のバランスを崩すのは正直あまり薦めたくはありません





…わかりました





いずれにせよ、来週もう一度検査をします。その際に適正なプレデニン摂取量を再検討してみましょう





よろしくお願いします


日光を遮られた病室。
ベッドで寝ている花蓮に近づく真。
花蓮の手をそっと握る。



ありがとう。ベッド片付けてくれて。正直引いたでしょ?ちょっと笑っちゃったよ。私ヅラだったっけって(鼻をすする)





なんで僕がここで待ってたか知ってる?


花蓮の髪に顔をうずめる真。



僕は花蓮の髪の匂いに包まれながらじゃないと眠れないんだ





わざとらしいなあ。今まで何人の女の人に使った言葉?





誰にも言った事ないさ


背を向けていた体を翻し、真に抱きつく花蓮。



お兄ちゃん、怖いよ。私これからどうなっちゃうの?





良い女になるさ。今以上にね


続く
