【第十九話 】
『両手使える』
【第十九話 】
『両手使える』
獣が鳴海の蹴りで吹き飛ぶのを見ていた坂本と左右田は互いに手を叩き、喜びを表現していた。
しかし、二人の目の前に大量のコンバイドがいる現実は変わらず、本来ならば余裕の無い状況でもあった。
この状況の中、二人が焦りすら見せないのは坂本の余裕と左右田の鈍感が見事に波長を合わせているからだろう。



さて、何かドキドキしちゃいましたね~。てっきりトキオくんは、あのまま振り回されて壁にグチャってなっちゃうのかと思いましたよ





あっ!坂本さん。それ、不謹慎すぎますよ





おや。これは失礼。そう言えば、左右田さん。手持ちの装備じゃ心細いと思いますが、大丈夫ですか?





何言ってるんですか坂本さん。丈夫ですよ。体育会系ですから





左右田さんが丈夫なのは、充分に分かりましたが―――


笑顔で答えた左右田に坂本は人差し指を一本立て、ゆっくりと足元を指し示す。
その指につられる様に左右田の視線が足元に向かうと突然声を上げた。



わっ!いつの間に?


足元にはUC-SFの銃火器が大量にばら蒔かれていた。



ご自由に使ってください





・・・これって、どこで?





ちょっと警視庁から拝借してきました。安心してくださいホンモノですから





いや、「拝借」の部分に安心できないんですけど


坂本は一つ咳払いをすると低い声で言った。



攻ずに守るだけで良いんです。左右田さん自身と・・・余裕があったら、そこの犯罪者を





はい。市民を守るのが仕事ですから、任せてください!





その言葉、信じちゃいますね


それだけ言うと、坂本の両足の踵から二本の触手が伸び、まるで鞭の様に動き激しく虚空を叩いた。
すると、その衝撃で坂本は前方へ弾き飛びコンバイドの群れの中へと姿を消した。
一方、トキオと鳴海は吹き飛んだ獣を見ていた。
飛ばされた衝撃でどこかの壁を破壊したのか、辺りは煙が巻き上がって良く見えない。
だからこそ、二人は案ずる事なく警戒を続けていた。



しっかし、ナイスキック!鳴海





・・・あんまり無様に喚くから、助けるの躊躇しちゃったじゃない





あっ。それ酷いな


トキオは笑いながら、鳴海より前に立った。



また?





違ぇよ。守ろうとかじゃねぇ。3つも借りができたんじゃ、頭が上がらねぇつーの





3つ?・・・そう言われれば、どんだけ、死にかけてるのかしら?





ウルセーよ。とにかく、立ってるのが奇跡な感じの人は休んでな





なっなんだと!





反論すんな―――カッコつけさせろ


二人の会話が終わる頃には立ち込めていた煙りも払われ、獣の姿を捉える事ができた。攻撃を受け怒り狂っているかと思ったが、視界に飛び込んできたのは捕食している獣の姿だった。



アイツこそ、本当の食いしん坊万歳だな





クダラナイ事言ってる余裕あるの?一回負けてるんでしょ?





・・・あの時は右手だけで戦ったからだよ。今は両手使えるから負けない





何なのそれ?屁理屈?





違ぇよ。7ARM本来の力を見せてやるっての


トキオはそう言うと、右手を目の前に突き出し掌を開く。すると腕の周りを回転していた7本の腕が、まるで花びらの様に開いた。



7種類のモードチェンジで遠中近距離の攻撃と、戦場でのサポート能力。腕を回転させる事でのガード能力。戦闘で必要な機能を全て備えた7ARM。ちなみに身動きが取れなくなっても音声認識で操作が可能だから、逆転のチャンスもありなんだぜ!





それなら、さっき尻尾に捕まった時、自分でなんとかできたんじゃん





えっ





全然、使いこなせてないわね





・・・と・に・か・く!見てろ!


軽く地団駄を踏み、トキオは掌を閉じると花びらの様に開いた7本の腕が一斉に閉じて右腕に重なりゆっくり回転を始める。そして左手を右腕に近付け回転する七本の腕の一本を―――引き抜いた。



7ARMの本来の力は7種類の各モードを使いこなすだけでは、終わらないんだ!


一瞬の光の後、鳴海の目の前には左手に鎖を巻き、拳の部分には鉤爪が付いたトキオがいた。



それって、左手にも装着できるの?


鳴海の言葉にトキオは鼻を鳴らし答えた。



7種類のモードから任意で2つ選び、その場の状況に対応し戦う。これが7ARMだ!


言い終えて、地方独自のヒーローみたいにチープなポーズを決めていた・・・が、キマってはいなかった。しかし、キマってないという感情を鳴海は押し殺し、ずっとトキオを見ていた。トキオも後方からアツイ視線を確かに浴びている事を実感していた・・・が、それが圧倒的に冷ややかな目である事に気づいてはいなかった。
