しばらくして、大森が幾つかの絵を抱えて戻ってきた。
しばらくして、大森が幾つかの絵を抱えて戻ってきた。



お待たせしました。





結構あるねー。





あ、俺達の絵もあるな。





そっくりに描けてんなぁ。





人物画もですが、
望月さんは風景画が特に素晴らしいですね。





確かに、
希は景色を描くのが好きだったよね。





学校の絵は……、あんまりないな。
もしかしたら絵の中に何か、
と思ったんだが。





ん、なんだこの絵?


笠原の目に止まったのは、真っ白な円に顔が描いてある、奇妙な絵だった。



なんだろこれ。
何かのキャラクターかな?





饅頭みたいだな。





饅頭に見えなくもないけどね。





ああ、その絵、
他の絵と比べるとちょっと浮いてますよね。
以前、望月さんが訪ねて来られた時に、
その絵について聞いてみたんです。
そのキャラクターは、
望月さんもよく知らないそうですね。





え、こわい。
無意識に描いてるってこと?





そういうことではないと思いますが……。





覚えのないキャラクターの絵か……。
怪しくはあるが、
今回の件には関係無さそうだな。
まぁ、一応覚えておくか。





んー。
他の絵は特別怪しいところはないね。





そうだな。
絵については、ここまでにしておくか。





ありがとう。助かったよ。





いえいえ。
それじゃあ、戻しておきますね。





ごめんねー。ありがとう。





それじゃあ、俺達は行くよ。
……すまんな、突然来て、
作業の邪魔しちゃって。





気にしないでください。
休憩しようと思っていたところですから。





ほんといい子だねー。





あ、1つお願いしてもいいですか?
また望月さんに絵を見てもらいたいので、
お暇な時にでも顔を出して欲しいんです。
望月さんに伝えていただけませんか?





ああ、わかった。
伝えておくよ。





そういえば、3人で来ようって約束したばかりだったんだよね……。





そうだったな……。





また来よう。
今度は望月を連れて、3人でな。





わー、懐かしいね。
やっぱりこっちの図書館の方が落ち着くよ。





なんで、図書館に来たんだよ。
ここに手掛かりは絶対に無いぞ。





……確かに。
希、全然本読まなかったもんね。





私が図書館行こうよーって誘っても、
頑としてノッてくれなかったし。





望月は国語の成績があまり良くなかったな。
まぁ、出来ないことには徹底的に目を瞑るのも1つの選択だ。





それにしたって、
一度くらい来てくれても良かったのに。
もしかしたら、図書館の場所すら知らずじまいだったんじゃない?





ハハ、有り得るな。





まぁ、ここには何も無さそうですし、次行きましょうか。





そういえば、屋上はまだ閉鎖されたままなんですか?





いや、もう開放されている。
……そうか。
そういやお前らは、
一度も屋上を見てないんだったな。





そうだねー。
私たちが入学した頃には、
もう閉鎖された後だったしね。





屋上の柵も随分ボロくなってたからな。
校舎の改装ついでに直すことにしたものの、屋上を閉鎖してるのをいいことに後回しに次ぐ後回し。
結局屋上が開放されたのは、お前らが卒業した1年後ぐらいだったよ。





皆、あの手この手で入ろうとしてたよねー。
こっそり鍵を盗もうとか、校舎の壁を登ろうとか。
ある種の伝説みたいになっちゃって、挙句の果ては屋上への隠し階段の噂が流行ったりね。





あったなぁ、そんな話も。
お前も何度か忍び込もうとしてたよな。
そうだ、折角だし記念に見ていくか?





いや、今日はやめておきましょう。
俺達は一度も屋上を見ていませんから、
恐らく望月の夢にも関係ないでしょうし。





そうだねぇ、
また3人で来た時に見せてもらおっか。





そうか。
それじゃ、屋上は次回のお楽しみだな。





ええ。そうしましょう。





懐かしいね。
希と一緒に手入れしたっけ。
なっだったかな。
いきもの当番みたいなの。





環境委員会のことか?





全然違うじゃねーか。





細かいことはいいの。
希とよくここで歌ったり、
絵を描いてもらったりしたなぁ。
ここも、希にとって印象深いところだと思うよ。





なんでまた、ここで歌なんだ?





花に歌を聴かせると、綺麗に育つんだよ。





へぇ。
それは知らなかったな。
まぁ、ここは民家に近いから、迷惑にならない程度にな。つっても遅いか。





それはいいとして。
ここにも手掛かりは無いようだな……。





今のところ収穫0じゃない?
大丈夫かなぁ……。


その後も進展が見えないまま時間だけが過ぎ、あっという間に日が沈み始めた。



……もう、こんな時間か。
今日はここまでにしよう。
すみません、先生。
長々と付きあわせてしまって。





俺のことはいいんだよ。
お前らこそ大丈夫か?
何もわからなかったんだろ。





結局見つからなかったね。手掛かり。





それについては仕方がない。
元々アテのない話だったんだ。
……また、次の方法を探すさ。





まぁ、しばらくは望月と一緒に居てやったらどうだ。
別に病気ってわけじゃないんだろ?
ずっと声をかけてやれば、そのうち起きるかもしれん。
もしかしたら、もう起きてるかもしれないしな。





そうですね。
ありがとうございます。





あ、先生。
お昼に教室で言ってた方法、
試してみていい?





おいおい。
本当に寝るつもりか?
……まぁいい。気の済むまで試せ。
それじゃ、
待ってる間に答案の採点でもすっかな。





そういうわけで、私はもうちょっと残るね。
笠原は希の側に行ってあげて。





ああ、悪いな。





帰る頃には夜中だろうし、
私は明日また希の家に行くね。





夜中ってお前、何時間寝るつもりだ?
流石に、そんな時間一人歩きさせるわけにはいかねーよ。
1時間ぐらいしたら起こすぞ。





いいじゃん。
帰りは先生が送ってくれるんでしょ?





お前は少し、遠慮ってもんをだな……。





まぁ、いい。
友達のために色々行動するのはいいことだ。
今日のところは大目に見てやるよ。





俺も、明日も望月の家に行くよ。
また明日な、日高。
先生、日高をお願いします。





おう。任せとけ。
次顔見せるときは、望月と一緒にな。





それじゃ、また明日ね。





あら、いらっしゃい……。


笠原は望月家にやってきた。
望月の母が応対してくれたが、その顔色を見るに、まだ望月は眠ったままのようだ。



……その様子だと、
まだ眠ったままのようですね。





望月の側に居てやりたいんですが、
上がらせてもらっていいですか?





……ええ、そうね。
お願いするわ。


昨日と変わらない部屋で、望月が眠り続けていた。
笠原は、ベッドの横に座り込んだ。



望月……。
なんとかしてやるからな……。


