日本のとある片田舎。
最寄駅からバスで1時間半の場所に、
『マジガチリアル物理学研究所』はあった。
『集え!自称超能力者よ!』
1人、また1人と、自称超能力者たちがここの門を叩く。己の力を証明するために。
しかし、この研究所から“無傷で”帰ることができた超能力者は、未だかつていない。
日本のとある片田舎。
最寄駅からバスで1時間半の場所に、
『マジガチリアル物理学研究所』はあった。
『集え!自称超能力者よ!』
1人、また1人と、自称超能力者たちがここの門を叩く。己の力を証明するために。
しかし、この研究所から“無傷で”帰ることができた超能力者は、未だかつていない。
また今日もこの研究所の一室で、
二人の男が対峙していた。



君が巷を騒がせている超能力者・高円寺コウジか





いかにも





ふふふ。私の名は本間マコト。人は私を『エセ超能力者の市営墓地』と呼ぶ!さあ私の目の前で超能力を証明したまえ!





よかろう!眼前で繰り広げられる奇跡に小便ちびらせるがよい





まずは透視テストだ。ナミコくん、例のものを





はい。博士





ありがとう。ここに透けない封筒がある。中に図形が描かれた紙が1枚入っている。君にはこの中の図形を透視してもらいたい





……いやだね





!?





なんだ怖気づいたか?





俺は無益なことに自分の能力を使ったりしない





なんだと?できない言い訳か





自分が使いたいとき、使いたいように使うんだよ、超能力っていうのは。封筒の中身を知って、俺に何の得がある





……





はっ!!





ど、どうかされました?





……黒





……なんなんですかっ





ふふふ。意外に大胆だな。レースの花柄、すけすけ…





えっ!ちょっっ…!





どうしたナミコくん!突然取り乱して…





どれ、下は…。おお!これまた大胆…。
きわどいねえ…。
…ちょっと、ずり下がってるぞ。ナミコちゃん





いやああああああ!!見ないでええ!!





!!





まさかおまえっ!





そうさ。おまえの助手のナミコちゃんの下着を透視しているのだ





もうお嫁に行けなあああいっっ!!
しかたないから、年収2000万で向井理似の細マッチョで、姑は口うるさくなくて、趣味がボルダリングの男の人でいいから、私をもらってええええ!!





理想高すぎない…?





落ち着け!ナミコくん





……これは実験なんだ。観測の結果が正しいのか、客観的に知る必要がある。
だから私にも下着、見せt





博士のスケベ!!





ナミコくん!ちょっと待って





……





行ってしまったな…。おまえ嫌われたぞ。
……なんかすまん





いやいいんだ





……きもちいいビンタだった





おまえ、どMのど変態か…





ありがとう





褒め言葉じゃないぞ





さあ次は念力のテストだ。君はスプーン曲げが得意だそうだね





よく御存じで





これを曲げてみろ





お安い御用だ





ほらよ





なんと…。
高級カトラリー専門店で売っていた商品の中では、わりと良心的な価格設定でありながら、かなり丈夫で、ナミコちゃんが手に持った時に「うわあ!かたーい♡」って言ってて、実はこっそり興奮してた、ステンレス製のスプーンを飴細工のように…





そのスプーンの説明いる?





おどろいたか?





いや、想定の範囲内だ





ふん。負け惜しみを





私はスプーン曲げを信じていない。スプーン自体は物理的な力を加えれば曲がる。どうせ隙をついて力で曲げているに違いないのだ。
そこで君には体力テストをしてもらう





ん!?





ここに握力計がある





・・・どういうことだ





君の握力を測って、もし尋常じゃないくらい握力が強ければ、君は超能力者などではなくただのゴリラということの証明になる!





どういう理屈だよ!てかもし俺が力を抜いたらどうすんだよ





いや君は必ず全力で握る





どうしてそう断言できるんだ





握力テストで力を抜くことは、男のプライドが許さないはずだからな!
戦闘力も懸賞金も存在しない三次元の世界で、男子力を示すバロメーターは、握力のキロ数なんだよ!
少なくとも俺は力抜かない!





なんてがばがばなテストなんだ…!





さあ!この握力計を握るのだ!





くそぉ…。どうすれば超能力を証明できる…





!?





ひらめいたぞ





うおおおおお!!!!!





よし。そこまでだ。どれ





48kg…。常人だな





ふはは。常人だと…?俺は超人だ!





なにを!





握力計をよく見てみろ





…?





はっ!!





針が回っていない!根元から折れ曲がっているだけだ!!なんてことだ。手を触れずに、握力計の針を曲げただと…





どうだ!信じざるを得ないだろ。
ははは!!





くそぉ…。まだだ!こんなことで認めるわけにはいかん!どこかに穴があるはずだ…。
俺はあきらめんぞ。きっとお前がエセ超能力者であると暴いてやる!!





楽しみだな。まあそんな日は、未来永劫来ることはないがな!ははははは!





それはそうと高円寺くん。握力計壊したね





え





これ8000円するのよね。次の超能力者のテストにも使うつもりだったんよー。
…弁償ね





えー。俺お金ないっすよ





はあ?





うち貧乏なんすよ…。そもそもここへ来たのも、賞金目当てだったし…。
博士が街に張ったポスターに『超能力者であると証明出来たら、賞金1000万円』ってあったから





はあ?まだ透視の件は証明できてないし、お金はあげないよ





えー。まじすか





握力計代どうすんのよ





賞金貰うつもりで来たから、もう帰りの電車賃さえ…





あ





どした?





8000円っすよね?





おう。8000円





俺の実家からこの研究所まで片道の交通費が4000円なんすよ





高っ!!





こんな辺鄙なとこに研究所作るのが悪いんじゃないですか





で、その4000円がどうしたの





いや往復8000円で、丁度だなと





は?握力計と交通費、関係ないじゃん。
ばかなの?





いやいやいや。だって交通費支給ってポスターに





あ





だから往復の交通費の8000円いらないんで、その分を弁償に充てるということで…





あー…。まあいいけどー…。
でもそうすると帰りの分の交通費もないんだろ?帰れなくね?どうすんの





んーーー…。じゃあここに住みます





へ?





ここに住みますよ。いいじゃないですか、博士は僕をいつでもテストできるし





えーーー。どうしようかなー…





それ以外win-winに済ませる方法ないっすよ





せやな





じゃそういうことで





お、おう…。よろしく


こうして超能力者・高円寺コウジは、
本間マコト博士、波ナミコとともに
『マジガチリアル物理学研究所』で暮らすこととなる。
今日もまた、
この研究所から無傷で帰る超能力者は生まれなかった。
そもそも彼は家に帰れなかった。
そのポテンシャルは十二分にあったにもかかわらず……。
彼の運命はいかに?
そしてナミコちゃんは夕飯までに帰ってくるのか!?
