望月は、校舎の時計を眺めた。
時計は微動だにしていない。
さっきから、ずっとこの調子だ。
故障しているのか、最初から動いていないのか。
まさか時間が止まっている、なんて事はないだろうが。
少女が、この世界から出られないと言ったのは、本当なのかもしれない。
体感では数時間ほど経っているが、夢が覚める様子はない。



もう、どれぐらい経ったかな……。


望月は、校舎の時計を眺めた。
時計は微動だにしていない。
さっきから、ずっとこの調子だ。
故障しているのか、最初から動いていないのか。
まさか時間が止まっている、なんて事はないだろうが。
少女が、この世界から出られないと言ったのは、本当なのかもしれない。
体感では数時間ほど経っているが、夢が覚める様子はない。



いつまでも、
ここに居るわけにはいかないか……。


望月は、そろそろと移動を始めた。
あの少女なら、ここから出る方法を知っているだろう。
少女を探さなければ。



とは言え。
あの子、一体何処に居るんだろう。
別れるときに消えてたから、もしかしたらこの学校には居ないのかも……。


そんな不安が頭をよぎったとき。
不意に、廊下の隅に人影が見えた。



あ、居た居た。


人影も望月に気がついたらしく、望月の方へ駆け寄ってきた。
人影が近づくに連れ、その姿がハッキリしてくる。
望月は最初、それが先程の少女だと思っていたが、どうも様子がおかしい。
人影はこちらに向かってくるが、先程と比べて随分と小柄のようだ。
やがて人影の正体が、月明かりに照らされた。



あれ? 違う……。
ってあの子、なんて物持ってるの。


駆け寄ってくるのは、小さな女の子だった。
その手には、小さな斧が握られている。
女の子は駆けながら、その斧を振り上げた。



ちょ、ちょっとまって。
あの子、私を狙ってるの?


女の子が迫ってくる。
その目は、真っ直ぐ望月を見据えていた。
望月は、慌てて逃げ出した。
幸い女の子の足は遅く、簡単にまくことができた。



ハァ……ハァ……。





明らかに私を狙っていたようだけど、
これがさっき聞いた"危険"ってやつなのかしら。
また可愛らしい危険が出てきたもんね……。





あの子もどこかで見た気がするんだけど、やっぱり名前が思い出せないわ。
慌てて逃げたから、
あんまりよく見てなかったし。





ん?


逃げ込んだ教室の隅に、白いクッションのようなものが置いてある。
教室に置いてあるものとしては不自然で、望月の記憶にもない。



なんだろ。この毛玉のようなクッション。
顔がついてる。
もこもこしてて可愛いわね。





……。





何かのキャラクター?
見覚えは無いけど、なんだろう……。
懐かしい感じがする……。


暫くクッションを眺めていると、不意にクッションが動き出し、望月と目があった。



え、動いた?





こんばんは、のんちゃん。
助けに来たよ。





しゃ、喋った……。
のんちゃんって、私のことよね?
あなたは誰?





……。





僕のことなんてどうだっていいよ。
君、ここから出たいんでしょ?





また……。
なんで私の夢に出てくる子は皆、
自分の事を話したがらないのかなぁ。





って、出られるの?





うん。





どうやって?





簡単だよ。
君をこのセカイに閉じ込めた張本人、
あの少女を、倒してしまえばいい。





少女って、
校庭であったあの子のことよね?
私と同い年くらいで、薄い水色の髪をした。





そう。
その子で間違いない。





倒すって、具体的には何をすればいいの?
あんまり暴力は好きじゃないんだけど。





これを使って。


そういうと、毛玉はのそのそと動き出した。
下から、銀色に光る何かが現れる。



え、ちょっと待って。





これであの子を倒すってつまり、
あの子を殺す……ってことなの?





そうなるね。
あの少女を殺さないと、
ここからは出られない。
躊躇うなら、逆に君が殺されてしまうよ。





そんなこと、急に言われたって……。





気持ちはわかる。
でも、それしかないんだよ。





……。





決心ができるまでは、ここに居ればいい。
ここは安全だし、まだ時間はある。
……君が生きてここを出るには、
あの少女を殺すしかない。
どうかわかってほしい。


