


この少年の名前は、ジョン。





ジョンの家はあまり裕福ではなかった。





ひとり一台ロボットを持っていて当然の時代に、ジョンの家では一台のロボットも使っていない。





まだ子供のジョンは知らなかったが、ロボットは高価だ。メンテナンスにもお金がかかる。





ジョンは貧乏に不満を言ったり、両親にわがままを言ったりは決してしなかった。





ただ、学校で友達にからかわれるのだけはまいっている。





それがジョンの誕生日に、お父さんから自分用のロボットを貰ったのだからとても驚いた。





本当? 本当に、ロボットを買ってくれたの?





ああ。お前ももう十歳だ。ロボットを持ったって良いだろう。





やったー!





ジョンは大喜びした。今まで貰ったどんなプレゼントよりも嬉しかった。





今年はお母さんの体調が悪く、毎年の楽しみにしていた手作りの誕生日ケーキがなかった。それでも、その悲しみを忘れる程にジョンは喜んだ。





ジョンの為にね、パパとママが一生懸命、選んだのよ。





さあ、お前にも紹介しよう。これがジョンの為に買って来たロボットだ。





……





……





……





すごい……人間みたい!本当にロボットなの?





もちろんよ。うなじの後ろを見てごらんなさい。電源のスイッチがあるから。





これはね、最新のタイプなんだ。たぶん、クラスの誰もまだ持ってないんじゃないかな





パパ、ママ、ありがとう!





今までのロボットとは違う、無機質な機械ではない。一目見ただけではロボットとわからない程に人間そっくりの外観をしている。





こんなロボット、ジョンは今まで一度だって見たことはなかった。





パパもママも家にいないことが多いからね、ジョンの友達になればって思ったんだよ。





一人っ子のジョンは家で留守番をするのは慣れっこだ。だけど、弟か兄がいれば良いのにと思うことは常々あった。





そうすれば一緒に遊んで、退屈を紛らわすことができる。





最高だよパパ。本当にありがとう。





さっそくジョンはロボットの電源を入れた。
うなじのカバーを外し、スイッチを入れる。





……





……





……





……





ロボットはお父さん、お母さん、それからジョンの順番に見た。それからジョンに向かってニコリと笑った。





こんにちは。キミが最初の友達だな。名前を教えてくれるかい?





ぼくは……ぼくは、ジョン。この二人はぼくのパパと、ママだよ。キミの名前は?





……ぼくに名前はないんだ。





ロボットは悲しそうに首を振った。仕草も表情も本物そっくりだから、ジョンもなんだか悲しくなった。





キミ、ぼくに名前をくれないか?





もちろん!





ジョンは答え、それから考えた。今日はぼくの誕生日だけど、彼の誕生日でもあるんだ。





だから、一番最初の贈り物にとっても素敵な名前を考えてあげなくちゃ。





それじゃキミは、今日からアランだ。





ぼくの一番好きなヒーローの名前なんだ!





へえ……アランか。





素敵な名前をありがとう、ジョン。





ぼくは今からアランだ。よろしく、ジョン。





うん!





ねえ、アラン、一緒に映画を観ようよ。ぼくの好きなアランって言うのはね、すごく強くてかっこいいんだから。キミにも観せてあげるよ。





ねえパパ、いいでしょう?





いいとも。今日はジョンとアランの誕生日だからな。





さあ、その前に料理を一緒に食べよう。冷めてしまうからね。





うん!





この日からアランはジョンの友達であり、弟であり、兄になった。





学校へロボットを連れて行くのは禁止だったから、ジョンは大人しく授業を受けて、学校が終わるとすぐに家に帰った。アランと遊ぶのを楽しみにしていたからだ。





ただいま、アラン!





お帰り、ジョン。待ちくたびれたよ。





アランはまるで人間と同じように、ジョンと一緒に漫画を見て笑い、映画を見て感動し、ゲームに負ければ憤慨した。





勉強を見てくれることもあった。アランはとても頭が良かった。だけど、宿題の答えをそのまま教えてくれたりはしなかった。しっかりとジョンに問題を解かせて、どうしてもわからなければ解き方を教えてくれた。





答えを教えてくれれば楽なのに。ジョンはそう思ったけれど、アランのそういうところが、とても人間らしくて好きだった。





ちょうどアランが家に来た頃、お父さんの仕事が何か上手く行ったことをジョンは知った。





大人の仕事のことはあまりわからないけど、お母さんとお母さんのケンカが減って、お金のことで二人は言い争わなくなった。





それに、もしお金に困っているなら贈り物にアランを買ったりはできなかったはずだ。





いつも家の中は笑いで溢れて、ジョンは今までにない幸せを感じた。





アランが家に来て、何ヶ月かが過ぎた。





アランと毎日遊ぶ。お父さんとお母さんの帰りが遅くなっても、もうジョンは寂しくなかった。





そんな日々が続いてジョンにも少し欲が出た





アランのこと、みんなに見せたらビックリするだろうな!





今まで自分をからかってきたクラスのみんなを見返してやりたい。そう考えたジョンは、アランに学校の外で待っていてくれるよう頼んだ。放課後、みんなにアランを会わせてびっくりさせるのだ





みんなを驚かせるのか。





面白い考えだな。





そうでしょ?だから、明日さ……





だけど、まあ待てよジョン





え?





ただ僕を見せるんじゃダメさ。もっと、劇的に演出するんだ





アランはイタズラを思いついたように、笑う。





キミにはぼくという最高のロボットがついてるんだってこと、クラスのみんなに教えてやらなきゃ。





旧式の型落ちなんかに家の掃除をさせてる奴らは度肝を抜かれるだろうね。そうすりゃ明日からジョンは学校の人気者さ。





そのためには段取りを考えるのも必要だよな





考える。確かにアランはそう言った。ロボットが考えるなんて。





ジョンの知っているロボットと言えば、ただ持ち主の命令に従うだけだった。





それ以外の表情なんか知らないみたいにいつもニコニコしていて、人間のおもちゃみたいなものだ。





ところがアランは違う。ジョンに賛同する。ジョンに意見を述べる。ジョンが間違えればこう言う。それじゃダメさ、ジョン。





もちろん、どんな意見を述べたって最後にジョンに反抗したりはしない。





どんな命令だって――命令なんて、ジョンはしたことがないけれど――アランは従うことだろう。





だけどそれはジョンが主人で、アランが命令に絶対服従の奴隷だからではない。アランとジョンが兄弟で、親友だからだ。





人間とロボットに友情や愛情が芽生えるはずがないという意見を、雑誌で読んだことがある。





その記事を読んで、ジョンはとても悲しかった。頭に来たのを覚えている。





ロボットは命令に従うだけの存在であり、いくら巧妙に作られたとしてもその本質を違えることはできないと雑誌には書かれていた。





今、その記事が間違っていたのだと、ジョンにはわかった。





アランはただのロボットじゃない。ぼくのお兄さんで、ぼくの親友なんだ!





うん。みんなをもっと驚かせよう!





どうすればいいかな?





そうだな……うーん、ちょっと待てよ





アランの頭脳は最新鋭の電子端末だから、学校のテストみたいに答えの決まっているものなら簡単に弾き出すことができる。





ところが今回みたいに人間の感情が絡む問題は別だ。うんと悩んだ挙句、ジョンにいくつかの提案をする。その中から答えを選ぶのはジョンだ。





いくつかの提案をした後、アランはこう言った。





こんなのはどうかな。まず、僕とキミが入れ替わるんだ





入れ替わるだって?そんなことってできるの?





簡単さ





ゴホン





アー、アー、





ほら、この程度





アランの声が変わった!





変な声だ。そう、とても変な声。自分の声を録音して聞いた時の声と、まったく同じ。





僕の名前はジョン・マクレガー。どうだい、おんなじ声に聞こえるだろ?これならパパやママだって騙せるぜ。





すごい……!





でも、見た目はどうするの? 確かにぼくらは背格好も似てるけど……髪の色も、顔も違うじゃないか





ぼくの顔は、微細電動スキンって言ってね。スキニングしたデータを表面上のナノパネルに表示してるだけなんだ。





……なにそれ?





つまりさ……





こんなこともお手の物ってわけ。





うわ、ぼくの顔だ!





数万の表情パターンをスキニングしなきゃいけないから、似せられるのはジョンだけなんだけど。





けど、こういうイタズラをするのならピッタリだろ?





すごい……これなら、みんなひっかかるよ!





その通り。





遊ぶ時は徹底的にやらなきゃって、ぼくはいつも言ってただろ?





うん!





日曜日にでもみんなを部屋に呼ぼう。誰も持ってない最新鋭のロボットを見せてあげるとか言ってね。





そこで僕が……そうだな、一時間くらい話すかな。





だーれも気付かない。だんだんみんな痺れを切らす。





おい、ジョン、いい加減にしろよ。最新鋭のロボットなんてどこにあるんだ。適当なウソを吐いたのなら俺は帰るぜ……なんて言い出すかな





そこでネタばらしだ。まあ待てよ……もうずっと前からみんなの前にいるぜ。ここさ。





キミたちが話していた相手はジョン・マクレガーじゃないんだぜ。





この僕がジョンの相棒にして、世界最新鋭のロボット、アラン・マクレガーさ





最高!





みんな、すっごい驚くぞ!





ああ……間違いないさ





絶対、気付かれないぜ


