私は、割れた櫛を拾いあげた。
私は、割れた櫛を拾いあげた。



割れているけど
効力はまだあるかもしれない……


そう思い、私は床の上に広がる女の髪に櫛を通した。



ギギィィィ………………ッ!!


女は硬直した。
この髪がやはりアノ女の本体なのか?
この櫛は、女の髪からわずかだが力を奪うみたいだ。



ユカ!!
アレ見て


マリエの指さす方を見ると──



朝……?


窓の隙間から微かな朝日が差し込んでいた。



…………!!


マリエは何かを思い立ち、窓の方へ駆け寄ると張り付いている髪をはがしはじめた。



マリエっ!!


私も駆け寄り、窓の髪をはがしていく。
すると……



陽射しだ………


久しぶりの光が部屋に差し込む。



グギっ……グギギっ……


女は陽射しにひるんだ。
私は、その様子を見て弟の方へ駆け寄ろうとした。
その時──
私は、あの鏡台にぶつかってしまった。
そして、鏡台は女の方へと向き、その姿が三面鏡に写しだされた。



ギっ……グギギギっ…………!!


その途端、まぶしい閃光が部屋を満たし部屋に張り巡らされた女の黒髪が光と共に鏡台へと吸い込まれていった。
そうして、気が付けば私たちはナニもない廃墟となった空き屋に佇んでいた。



女は……?





いない……消えた……?


まるで、夢でも見ていたみたいだ……。
部屋をもう一度見回すと、アノ三面鏡はまだあった。
私は、そっと中を覗いてみる。
鏡の中は血に染まったような世界が広がり、そこから出ようともがきながらあの女が這いつくばっていた。
側には血みどろの少年がいて、女の髪を皮と一緒にむしり取り引っ張ってを繰り返しながら微笑んでいる。
私は
鏡台を閉じると、鍵を掛けた。



ユカ!!
こっちに来て!!


マリエの声を聞いて、私がそちらを見ると弟の姿があった。



…………





大丈夫! 息はあるわ……





ユウ……


私は、弟を強く抱き締めた。
あの日の出来事がまるで嘘のようだ。
私は、弟と普段通りの生活に戻った。



おねえちゃ~ん
早く早く!!





もう、ちょっと待ちなさい
前ちゃんと見て!





は~い


普通の日常が戻って来たのだ。



良かったわね、ユカ
ユウ君元気になって





うん、なんとかね


ユウは、あの時の事を夢か何かと勘違いしている。
友達が事故で死んだのを目撃した自分が作り上げた幻みたいなものだと……、そう思っているようだ。
アレを現実と受け止める事は、出来ないだろう。



でも、良かった





どうして……





…………ぇっ?





ねぇ、どうして……





助けて……くれなかったの……?





えっ……?
い、今何か聞こえて……


その時、私の喉に何か絡まる感覚がした。



けほっ……
ケホケホっ……!!





ユカ?





なっ……
何……これ……?


私の口から吐き出されたのは…………
長い髪の毛…………だった。
