昨日の部屋に着いたのは約束の時間の十五分も前だったが、二人はすでに到着していた。
キツネが不機嫌そうに眉根を寄せ、唇をつきだしている。
昨日の部屋に着いたのは約束の時間の十五分も前だったが、二人はすでに到着していた。
キツネが不機嫌そうに眉根を寄せ、唇をつきだしている。



聞いてくれよお、サミー! このお姉さま、さらにあの後二人も捕まえたんだってよ。さっき、実はね、だってさ





正確には二体よ、どれもダミーだったわ。
半径五メートル以内に入って移動しようとするもんだから、不可抗力よ、捕まえないと逃げちゃってたの


シグレがふん、と鼻をならした。



残り二、三体ほどですよね。もし一人で捕まえられるようなら、俺、一人で向かいますよ


俺の言葉に、キツネはあんぐりと口を開けた。シグレもきょとんとしている。
そして、いっぱくおいて、ふたりできゃらきゃらと笑い始めた。大爆笑だ。なんか言ってしまったらしい。訳がわからないまま、俺の頬は赤くなる。



なんですか!





シグレだからできるんだよ! あはは、シグレ、まだまだ有名なのはキルズの中だけだ





あっははは、本当ね、長い鼻をへしおられた気分よ、あはは! お願い、キツネ、説明してあげて





ぎゃはは、いいぜ、いいぜ。いいかサミー、彼女はキルズの戦闘幹部、いうなれば、戦闘大好き大得意なお姉さんなんだ、簡単に言うとな。
キルズの中でも十人程度しかいない、単独殲滅を許されている一人なんだ、すげえ、人なんだぜ、ぎゃはは、俺も一人でいきますって、ぎゃははは


頬がほてる。くそーそこまで笑わなくてもいいじゃないか、くそー。



じょ、冗談です





うそね





うそ、下手かよ!


ぎゃははは、とキツネの笑い声。くそーくそーくそー。



ま、単独殲滅はなるべく避けた方がいいに越したことがない。
単独殲滅ってのは、他のメンバーが負傷したけど相手を逃がしたくない、なんてときにその特権を使用するべきなんだ。
単独殲滅は危ないからな。ひとりで一晩に三人も殲滅なんて、聞いたことないぜ


キツネがシグレをぎろりと睨む。
惚れた女が殺戮大好きちゃんだったらどうしようと悩んでいたことを思い出すが、シグレの立場を考えれば、確かにその節も浮上する。



近くにいたんだよ、やっつけたいと思うじゃない。ま、全部ダミーだったけどね





どこにいたんです?
巨大ランドリーの洗濯機にいたってのは聞きましたけど





そこ、大きなホテルでね。客室内にいたの。
同じホテル内に隠れてくれていてラッキーだったわ





どうして、同じ場所に隠れているんでしょうね





そうね、問題はそこよね


シグレは床を睨み付け、吐き捨てるように言う。



何がしたいのよ、青い宝石は


そんな彼女のことを、キツネは心配そうに見つめている。俺だって心配になる。
彼女は、アクアマリンを憎んでいる。恨んでいる。
しかし、キツネはそうじゃない。キツネこそ、憎んで恨んでもいい立場だろうに。
この世界では、彼女のようなタイプが珍しいのだろうか。それとも、彼のようなタイプが珍しいのだろうか。
わからないが……前者であればいいと思ってしまうのは、やはりどこか、俺自身がまだこの世界の考えに慣れていないからかもしれない。



ま、とっとと捕まえてから聞けばわかることだ。
キルズを混乱させはするが、基本的には害のない魔女なんだろ





過去の事例はあるけどね





それももう、百年以上前のことだ。
キルズの本部があるここに潜伏し始めたってことは、相手が何か話したいのかもしれないよ、シグレ





おちょくりたいのかも





広い視野を持たないと、足元救われるっていってるんだ


なんだか険悪なムードになってきてしまった。隣のサンザシが、半歩下がる気持ちがよく分かる。
