三日前。



今通った子の足首見た!? すごかったよ! きゅって、きゅってしてて、すごーいよかった!!





あぁ、うん、そうだね。すごかった





おぉ、あそこを行く女の子の鎖骨もなかなかね。うん、あのくぼみにジュースを溜めて飲みたいわ





うんうん、悪くないね





あぁ〜、あの子のくびれ見て! あの曲線ホント芸術品よ……角度測れないからしら。測れたら、色々と参考に出来るのに





なにをくだらない話をしているんだ、と道行く人たちが僕らの方を見ている





僕だってそう思う。なんでこんなフェチについて延々語らねばならないのか、って





だけど、これにはきちんと理由がある





——これは世界を救うためなんだ


三日前。



あの日、僕は渋谷駅前でナンパをしていた





ご覧ください、こちらの映像を。東京湾近海に出現した、謎の大穴です!





先日、東京湾に突然出来た大きな穴をテレビではずっとやっているが、道行く人たちはいつもと変わらず生活している





僕もそうだった。いつものように渋谷駅前で暇をつぶしに付き合ってくれそうな女の子を探していた





そのとき、目についたのが彼女だった





……





誰を待つでもなく、むすっとした表情で立ったまま、時折周囲に視線を向けてはまたうつむいている





周囲を遠ざけているように見えて、ああいう子は、声をかけられるのを実は待っているパターンが多い





そんなことを思って見ていると、彼女に何人もの男が次々に話しかけていくのが見えた





ねえねえ、お姉さん。暇なの? よかったら俺と話さない?





……!!





みんな少し会話すると、彼女に怒鳴られてすごすごと退散していく





どうやら、彼らは通り一遍のナンパをして失敗しているようだった





ナンパというのはただ声をかければいいってもんじゃない





まず大切なのは第一声。そこで相手に『なにいってんのこいつ?』って思ってもらえること





それでいいの? って思うかも知れないが、それが大切。そうやってこっちに少しでも興味を持ってもらえれば後はこっちのものだ





……





彼女の周りから男がいなくなったタイミングで、僕は話しかけることにした





お姉さんの鎖骨のライン、すごいきれいだね





は?





ものすごく不審な目で見られた。だけど、これでいいんだ





だから、お姉さんの鎖骨のラインがきれいだって。言われない?





……言われない。ケド





そうなの!? 僕がこれまで会った中でお姉さんの鎖骨が一番きれいだよ!? いやー、綺麗すぎて驚いて、思わず声かけちゃったもん





……





こうしてムリヤリにでも褒めていく。褒められて悪い気がする人間はいない





ホントに誰にも言われたことないの? 一度も?





ないわ、一度も





みんな見る目ないね





ホントね





彼女のとげとげしい雰囲気が少し柔らいだ





……





さっきからちょっとお姉さんの鎖骨きれいだなぁって思って見てたんだけどさ、いろんな男に話しかけられてたよね?





あいつら、みんなダメ。ダメダメ。分かってないヤツばっかり





うんうん。ダメダメだね





あなた、少し話せそうね





そうだね、僕らはとても気が合いそうだ





話に食いついてきた彼女に、僕は内心ほくそ笑んだ。この話題にこんなに反応してくれると思わなかったけど





ねぇ、じゃあ、あそこの女の子のことどう思う?





へ?





だぁかぁらぁ、ほら、あそこのあの子! あの子はどこが素敵?






これはいったいなんなんだろう? 普通に考えると、他の女の子のことを褒めるのはNGだけど……





うーん、あの子はやっぱりおっぱいがいいと思うな





!!





あのネクタイの曲がり方を見てよ。胸が大きいから、ネクタイが浮いちゃって不自然な曲がり方をしているよね……それを隠そうとしてるのか腕組みをしているけど、そのせいで余計に強調されて……





あなた!!





いけね、調子に乗って話過ぎた





わかってるじゃない! そうよ、あの子の素晴らしいところはあんなに大きな胸をしているのにそれを誇るではなく恥ずかしそうにしているところ……そこなのよ!





あ、ああ、そうだね





うん、よし、決めたわ





へ?





この人に決定〜!





な、なんだよ!?





彼女がそういった瞬間、周囲にいた通行人を装ったおっさんたちが僕を羽交い締めにした





あなたを地球人代表として、私のお友達に任命します。楽しくお話ししましょ?





はぁっ!?





疑問の声を上げると同時、おっさんの一人の腕が首に巻き付けられ、僕は意識を失った





目を覚ますと見知らぬ天井だった





ここは……?





起きたかね





あんたは……?





私はジョージ、国家保安局の人間だ





国家保安局? なんでそんな……





キミが先ほど話しかけた女性だが……





げ、まさかさっきの子、実は超お偉いさんの娘さんとか……?





彼女は地球にやってきた宇宙人でね





は?





キミはこのニュースは知っているね





ジョージさんはテレビをつけ、相変わらずやっているニュースをみながらいった





この東京湾に突然現れた大穴……あれは先ほどの彼女の仕業なのだよ





そんなバカな





キミが信じようが信じまいがどうでもいい。だが、彼女が我が国……いやこの星にとってとてつもなく重要な人物であると言うことを理解して欲しい





は、はぁ





彼女は『友達になりたい』という理由でこの星に来たそうだ。だが、こちらが用意した人材は誰一人気に入らず……キミが選ばれたというわけだ





なんで!?





こちらが聞きたいね……





まぁ、どうしてキミなのかということをとやかく言っても仕方がない。彼女がキミだと言ったのだから





そこでお願いだ。彼女と友達になってもらいたい





もっとも、キミに断る権利はないがね





……





彼女の機嫌を損ねないように、十二分に注意してくれたまえ





もしも損ねたら……?





ジョージさんはテレビへと視線を移す。そこにはカメラからのぞき込むように写された東京湾に開けられた大穴があった





……





頑張ってくれたまえ





あ、目冷ましてる!





噂の彼女がやってきた。こうして改めてみても、宇宙人だなんて信じがたい





これから、よろしくね☆





こうして僕は地球の平和を守るため、彼女の話し相手となったのだ


