世界の破滅、地球の最後……明日、人類が滅ぶ。
　そんな言葉を連ねた予言やフィクションが世に溢れる現在今日にしても、結局のところそれはただの“空想”で終わってしまうことを証言するのは僕等だ。
　今日一日の終わりや一週間の終わり。はたまた１ヶ月の終わりなんてものはカレンダーを見れば数字として認識出来る。

　そしてまた昨日が終わり、今日を迎えて。昨日やり残した事を思い出しても、やり直しがきかないことを思い知らされて……。
　終わりの心配よりも、巻き戻しばかりを望む。
　そんなとこだろう？

　中学の頃、隣に越してきた柊ユウはお節介なことにこうして毎朝窓の下から声をかけてくる。
　僕個人にお節介なのではなく、その性格は学校でもいかんなく発揮されるし、街中でもすぐ人に声を掛けてしまう所は……全くもって典型的奥手な日本人には見えなかった。

　高校生になっても同じ学校に通え、毎朝一緒に……あんなに可愛い女子と登校出来て嬉しくない男はいないだろう。
　柊にとって……、
　僕がどんなに手の焼ける子供とか、
　自分に寄ってくる人間避けの為の道具だとか……
　そんな存在であったとしても僕は構わない。

　忘れ物常習犯な所も、きっと彼女のお節介スイッチを入れ易くしている要素なのだろう。
　それならば、これは直してはいけない長所だ。

　いつもの道を歩き、いつもの交差点の信号に捕まる。この時間帯、このタイミングはいつも通り。
　中学も高校も徒歩圏内であるから、この信号に待たされるのはもう何回目だろうか？

　さっき家を出る直前、リビングのTVで映っていたのをちゃんと確認しておいて良かった。

　柊が指差す先にはガラスが粉々に砕け、立ち入り禁止のテープが貼られているコンビニがあった。
　僕もよく利用するコンビニだ。

　信号が青に変わった。
　待たされていた僕等学生や、サラリーマン達が一斉に白線へと足を伸ばす。
　ここの信号はいつも長いから、決まって皆我先にと前へ出るのだ。

　世界が反転して、後頭部と背中に激痛が走る。

　ボヤける視界と遠くなる耳で、しっかりと柊を確認すると、どうやら彼女には傷１つ無いようだ。
　良かった。

　まだ余裕があってぐるりと周りを見回すと、どうやら車に跳ねられたのは僕だけらしい。
　運が良いというか、悪いというか……。

　車は恐らく信号無視だろうか？
　救急車に電話を掛けている人や、逃げようとしている運転手を押さえ込んでいる人もいる。

　柊の悲鳴が聞こえたので頭を戻すと、そこには目から今にも溢れでそうな涙を溜めた、綺麗な顔がそこにあった。
　やっぱり、彼女は可愛い。

　ちゃんと答えて、それから僕は眠るように落ちた。
　意識が途切れる寸前、また柊の悲鳴が聞こえた気がしたけど……どうだろう？

　彼女は僕の死を悲しんでくれるだろうか？
　悲しんでくれるなら、それはどうして？

　たかが隣の家の同級生の為に流してくれる涙は、一体どんな感情から生まれているのか……僕はそれだけが解らないんだ。

　いつも。いつまで経っても。

　壊れる音がする。
　終わりの音だ。

　でも大丈夫。これだっていつもの事だ。
　柊には初めての事だろうけど、僕はもうすっかり慣れてしまったんだよ。
　だから、疲れて寝てしまうくらい、僕のための涙を流して欲しい。

　セカイが終われば、どうせ君は忘れてしまうんだし。