魔法使いは、俺を上からしたまでなめるように見ると、目をきらきらとさせながら歩み寄ってきた。



……あら、まあ、まあ!


魔法使いは、俺を上からしたまでなめるように見ると、目をきらきらとさせながら歩み寄ってきた。



素敵、素敵なことですわ! まさか夢が叶うなんて!





おお、それは何より……


じりじり、と近寄ってくる。
じりじり、と離れるしかない。



勇者様、お困りではありませんか?
いえ、お困りなはずですわ……ひとりでお嫁様探しの旅に出る勇者様など、きいたことがありませんもの


なんですって?



きっと、いろいろな事情がおありなのでしょうね……普通なら、いえ、普通という言葉はナンセンスですわ。
多くの場合は、お嫁様探しはお供をつれてするものですわ。
そう、例えば、わたくしのような


じりじり近づいてきていた彼女が、急に駆け足になり、あっという間に俺の前まで来ると、俺の手を取り、鼻と鼻がくっついてしまうのではないかというほど近くまで顔を寄せた。



わーっ!


と叫んだのは、俺ではなくサンザシの方だ。いやいや、わーじゃないよ、わーじゃ。



いかがですか? わたくし、お供についてもよろしくて? 勇者様!





……なぜ、お嫁様探しをしているということが分かったのでしょうか


俺が訊くと、あら、と魔法使いは目を丸くする。



その額についていらっしゃる宝石は、その証拠ではございませんこと?


俺は、額に手をやり、そっと撫でる。
青い、大きな宝石が埋め込まれているはずだ。つるつるのこの宝石に、そんな意味があったなんて。



……どんなお手伝いをしてくださるのでしょうか





それはもう、大きな葉っぱがあれば魔法でどけますし、仲人が必要ならわたくしがなります!
寝床も魔法で作りますし、料理も炊事も任せてくださいませ!





……なるほど。ではよろしくお願いします





まあ! 素敵ですわ、素敵ですわ!


魔法使いさんは、パッと手を離すと、嬉しそうにくるくると回りだした。
俺はというと、やっと至近距離から解放され、ぜえぜえ言っている。いやー、パワフル。
というか。
というか!



魔法! 俺は魔法使えませんかね


サンザシにこそこそと訊くと、



残念ながら


とサンザシは肩をすくめた。あーもう、せっかく魔法が使えると思ったのに!
自分でもよく分からないほどの魔法への執着を感じながら、まあ、とりあえずは目の前で魔法がみられるかもしれないのだからと自分を言い聞かせ、くるくると回りながら大きなお花に話しかけている魔法使いさんのもとに歩み寄る。



名前は?





オルキデアともうします、蘭の花という意味ですわ。ルキ、と呼んでくださいませね!
蘭の花はご存じですか? たくさんの色があり、たくさんの形があり、たくさんの花言葉もございますのよ!
薔薇には負けませんの!





薔薇が嫌いなんですか?





大好きですわ! でも、蘭はもっと好きですのよー!


好き、ぐらいからくるくる回ることを再開したオルキデアこと、ルキさん。
しかし、このゲーム、テンション高すぎる人、多くないか! しかも、この自由気ままな会話のキャッチボールはなんだ!



勇者様のお名前は、なんというのですか?


