地球から108光年離れたとある惑星――
地球から108光年離れたとある惑星――



ラムダ? おーい、ラムダの奴はどこだ?





え? 太陽系第三惑星の視察に行ってる?





それにしちゃ時間がかかりすぎだろ。あんな星の存続判定なんて一瞬で済ませられるじゃんか。





まったく、あいかわらずグズのラムダだな。





そうだ! 今からオレが行ってやろう。どうせ太陽系第三惑星なんてド田舎のド辺境なんだろ。即効でバンしたって誰も困らねえだろうし。





んじゃ、ちょっと行って来るわ!


一方、ここは太陽系第三惑星、地球。



……ふう。道路工事のアルバイトは想像以上にキツイなあ。腰がメリメリいうよ。





日払いにつられて働き出したけど、考えてみれば僕はあんまり体力に自信がなかったんだよね。





でも、こうでもしないとラムダを満足させられる食事は用意できそうにないし……。





あーあ。都合よく異世界の扉が開いたりしないかな。ここではないどこかへ行きたい。





うわあああ、な、なんだ!





……って、前にも似たようなことがあった気がするな。





ふーん。ここが太陽系第三惑星、地球ってやつか。想像してた通りのクソ田舎だな。





……ア、アレ? この少年、変な格好がラムダと似てないか?





お、地球代表のサンプルモデルをさっそく発見。流石はオレ。仕事が早いね。





き、君。もしかしてラムダの関係者か何か?





うっわー。冴えない喋り方。べちゃべちゃした声。締りのない顔。こりゃ駄目だな。





え、ダメって何が?





オレだったらこんな星とは交易したくねー。絶対にしたくねー。ってなわけでこんにちは。オレの名前はイプシロン。そしてサヨナラだ。


いきなり分厚い光線が僕に向けて照射された。



う、う、うわああああ!


突如、僕の横からブルーレイがほとばしった。
二つの光線はぶつかりあって空中で相殺された。



どういうことダ、イプシロン。





ラ、ラムダ!


いつの間にかラムダが僕の隣に立っていた。



よーお、ラムダ。元気してた?





普通ダ。それよりなぜ、星野亘を攻撃しダ。彼はこの地球の代表サンプルなんダが?





知ってるよ。だから処分しようとしたんだ。そいつの顔を見た途端、この星の平均水準がいかに低いか、すぐに理解できたからさ。





まあ、グズのラムダはオレより頭の回転が遅いから、判断を下すのに時間がかかるのかもしれないけどな。





確かに我はイプシロンよりも処理速度が遅い。それは認めるダ。しかし、この星の決定権は我にある。イプシロンには、ないダ。





杓子定規なこと言ってないでさ、オレの判断に従ってさっさと済ませちゃおうぜ。それで余った時間はオレとアンドロメダ星雲に最近オープンしたブラックホール遊園地に行こう。





遠慮するダ。





なんでだよ?





グズのラムダはオレの言うこと聞いていりゃいいんだよ! さっさとそいつをぶっ殺して、地球もぶっ壊して、ブラックホール遊園地に行くんだ!





それとも何か? この星を存続させたい理由でもあるってのか?





……それは、言えないダ。





なんでだ! クソッ!


イプシロンは再び僕に向けて光線を放った。



させないんダ。


両者の光線は空中でまたもや相殺された。



……ラ、ラムダ。


普段であれば簡単に地球を壊すと言ってくるラムダが、
地球を、そして僕を守るために戦っている。



こ、怖い! でも、ラムダが僕のために戦っている! 僕だけ逃げるわけには……





星野亘。勘違いするんじゃないダ。


激しい戦闘を繰り返しながら、ラムダが言った。



我が戦っているのは地球にはまだ美味しいものが残っていると予想されるからダ。





そして星野亘を守っているのは、食事を効率良く提供させるためダ。個人的な感情はないダ。





………………





アニメやマンガではこういうのをツンデレって言うらしいけど、ラムダの場合はきっと素で言ってるんだろうなー。


僕は流れ弾に当たらないように二人から離れた。
正直、宇宙人同士の戦いで僕の出る幕はないのだ。



ムカツク! ムカツク! オレの思い通りにならないことは全部ムカツク!!!


しばらくは対等な戦いのように見えていた。
しかし徐々にラムダが圧され始めた。



しまっダ! エネルギー切れダ! お腹すいダ!





グズのラムダがオレに歯向かいやがって! 後悔しろ! 喰らえ!


イプシロンの光線によりラムダの右手が消し飛んだ。



……………!?





ラムダッ!!!


気がつけば僕はイプシロンの前に飛び出していた。



や、や、やめてくれ!





星野亘! 逃げるんダ!


怖かった。足が震えた。
でも逃げるわけにはいかなかった。



は、話せばわかる。い、いや。食べればわかる。ラムダが地球を守ろうとしているのは、地球の食べ物が美味しいからなんだ。





き、君も地球の食べ物を食べればきっと気持ちが変わってくれるはずだ! かつてラムダがそうだったように!





ふーん。そういうことか。へー。





じゃあさ、その美味しい食い物ってのを持ってこいよ。3分間だけ待ってやる。





本当に!? あ、ありがとう!


時間がないから僕は最寄りのコンビニに駆け込んだ。
そしてハッピーターソを購入して戻ってきた。
ラムダと同じ宇宙人なら、これで恍惚になるはずだ。



じゃあ、食うぜ。





こ、これできっと……





……ダ、ダメなんダ。





……え?





全然ダメだ。まったく美味くねえな。


イプシロンはハッピーターソを爆発させた。
路上には魔法の粉や破片が舞い散った。



……な、なんで?





イプシロンは我々の誰よりも能力が高いエリートなんダ。しかし……!





超弩級の味オンチなんダ!





は? 味オンチ?





うるせーぞ、繰り返すんじゃねえ!


――次回、
第二の使者、イプシロン(後編)
