アクロの姿を見ながらルークは尋ねる。
　その問いに、頷くカノン。こんなに面白いものは無いというように、熱心にアクロの飛影を追う。
　

　『獣持ち』は、人間にして自由なタイミングで獣の姿に変身することが出来る能力を持ったものの事である。限られた能力であり、その仕組み、要因はまだ謎が多い。
　

　まるで自分の目を疑うかのように、目をこすりながらセトが呟く。
　

　カノンは肩をすくめて、首を軽く振る。

　その言葉にルークは頷き、再びマーカー弾の準備を始める。

　アクロは空中を右へ左へ自由に舞う。予想の付かないその動きに魔獣は戸惑っているようだ。
　

　アクロは旋回し、正面から左方向の腹部に刀で攻撃を仕掛ける。
　魔獣はアクロを捉えようと鋭い爪を振りかざす。ひらりとその爪を躱し、魔獣の腹部に斬撃が入る。
　

　あまりダメージにはなっていないようだか、気を引くには十分な一撃だった。魔獣は目の前に突然現れた燕に少し苛立っている様子である。
　軽い炸裂音がした。ルークの放ったマーカー弾が無防備だった魔獣の背中側に命中する。
　

　その攻撃を受けた魔獣は素早く反転し、今度はルーク達の乗る戦闘車に向かって接近してきた。
　

　カノンが車を止め、飛び降りる。
　その言葉を受け、セト、ルークも車を降りる。カノン、ルークはそれぞれ魔獣の右側、左側へ駆ける。セトは車の正面に立ち大剣を掲げ、魔獣に向かっていく。
　

　セトの一振りと魔獣の爪が激しい音を立てぶつかりあう。一瞬の均衡の後、セトの身体は後方に吹き飛び、転がっていく。
　

　セトは剣で身体を支えながら立ち上がる。致命傷にはなっていないようだが、その体に確かなダメージを受けていた。さらに畳み掛けるようにして魔獣が再び向かってくる。
　

　セトが剣を盾にして攻撃に備えた、その時。
　四発の連続した銃声、それに続く炸裂音が響く。赤、青、黄、緑、様々な色の弾が魔獣の顔面に次々と命中し、魔獣は怯んだ。
　魔獣の反応を確認してカノンが呟く。
　

　カノンが放った銃弾は、『カラフルブレット』炎、水、雷、風の属性弾である。威力は低いが敵への有効な攻撃を確かめる事が出来る銃弾である。
　

　ルークは魔獣との距離を一定に保ちながら、次の攻撃のため充填を始める。
　前方、左右そして空中から囲われるような陣形になり、魔獣の動きには迷いが見えた。

　アクロは滑空し再び魔獣へと攻撃を仕掛ける。上空から下に切り下げる形で斬撃が魔獣に入る。
　低いうめき声をあげ、魔獣が退く。

　上空へ移動し態勢を整えながら、アクロは次の攻撃チャンスを伺う。
　軽い咆哮を上げた後、ふと魔獣は動きを止めた。足元を確かめるように、ぐっと両足に力を込めている。

　動きを止めた魔獣目掛けて、アクロが向かう。
　背中から尻尾へと魔獣の毛が逆立っていく。その様子を見て、何かを感じとったカノンが叫ぶ。
　

　アクロがその声を聞き、旋回を始めるのとほぼ同じタイミングで、魔獣が大きく咆哮を上げた。
　魔獣は両足で大きく地面を蹴り回転しながら宙に舞った。鉄のように硬くなった尻尾が周囲の砂を激しく舞い散らせる。

　ギリギリの所でアクロはその尻尾から逃れたが、舞い散る砂に視界を奪われた。それはアクロだけで無く他の三人も同様だった。
しばらくして砂が収まり、視界が晴れてきた頃、魔獣は姿を消していた。