そして今日、『予想通り』流矢の自宅の前で意識を取り戻した僕は、彼と作戦を確認している。
そして今日、『予想通り』流矢の自宅の前で意識を取り戻した僕は、彼と作戦を確認している。



……いいんだな?





ああ、この一件を終わらせるには君の力が必要だ。……どんな結末を迎えたとしても、受け入れる





さかえま……いや、わかったよ





……僕はこれから藍里の家に向かう。おそらくは、そこでもう一度交代が起こるだろう。その後、『僕』はもう出てこない


そう、この一件が終われば、『僕』は消えるはずだ。
だが、それでいい。藍里を救うには『僕』がいてはいけないんだ。



俺はそれには反対だ。神楽坂を動けないようにした方がいい気がする





確かに、君の安全を考えればそうだ。しかし、僕の目的は藍里を救うこと。それには、この行動が必要なんだ


……僕は藍里のために、流矢の身を危険に晒すかもしれない。
やはり彼の言うとおり、『僕たち』は似ている。
――似ざるを得なかったんだ。



わかったよ。とにかく、お前が指定した時間に電話をかけて、神楽坂を『あの場所』に呼び出せばいいんだな?





そうだ。その間に僕は準備をする





……お前は神楽坂を助けるつもりかもしれない。だが、俺にとっては違う





……





俺は神楽坂と決着をつける。これから始まるのは『決戦』だ


……流矢の言うとおり。
これから始まるのは、『神楽坂 藍里』と『流矢 香澄』の決戦だ。
そしてそこに――
――『栄町 大護』は、いない。
========================
私は自宅の自室で意識を取り戻した。



……またか。何故か流矢の自宅前で交代してしまう


私は昨日今日と、流矢の自宅に向かって大護さんの身体を取り戻すつもりだった。
だが、いざあの家に入ろうとすると、決まって大護さんと交代してしまう。
心優しい大護さんは、例え自分の体に偽物が入っていても、殺したくはないのだろう。
だけど私は違う。大護さんのためだったら、何人だって殺してやる。
邪魔はさせない。私は大護さんのために生きると決めたのだ。



……ん、これは


その時、私はテーブルの上にあるものに気が付いた。
お菓子と、ジュース。
しかもこれは……



これは、大護さんが初めて私の家に来てくださった時の……


そう、大護さんを自宅に招いて『能力』について明かした時に、私が用意した物と同じだった。
しかし、私が並べた覚えはない。そうなると、今回は大護さんが用意したのだろう。



大護さん……


そうだ。あの時、私と大護さんは恋人同士になったんだ。
『能力』を受け入れてくれた大護さんに対して、私は嬉しくて泣きわめいてしまった。『告白』の成功でさらに泣きわめいた。
まさしくあの時の私は幸せの絶頂だった。
なのに……



どうして、こうなってしまったのだろう


私のせいで、大護さんは肉体を失ってしまった。
幸運にも繋ぎ止めることは出来たが、それも長くは保ちそうになかった。
でも、あと少しだ。



あいつから、大護さんの身体を取り戻せば……!


それさえ出来れば、また大護さんは元通りの生活を送れる。
私たちの幸せを、取り戻せる。



僕の言葉を本心だと証明はできない。でも、信じて欲しい





……くっ!?


なんだ? 何でこのタイミングで、大護さんの言葉を思い出したんだ?
そうだ……大護さんは私を信じてくれた。私の言葉を信じてくれた。
でも、私は?



くうっ!


余計なことを考えそうになった頭を、壁に打ち付けて黙らせる。
あと少しなんだ。あと少しで大護さんを救える。
そのためには、余計なことを考えてはならない。
~~♪
その時、電話の着信音が鳴った。
近くにあった電話を取り、液晶画面を見る。
発信者は……『流矢 香澄』!?



……もしもし





神楽坂だな? 一時間以内に今から指定する場所に一人で来い





なんだと? なぜ私がお前の命令を聞かなければならない?





別にいいんだぜ?


そして、流矢は言い放つ。



愛しい彼氏サンの身体がどうなってもいいならな


文字通り、『捨て身』の脅迫を。



お前……!


怒りで体が震える。大護さんの身体に巣食う寄生虫如きが、彼の身体を傷つけようと言うのか。



言っておくが、夜ヶ峰先輩はかなり危険な状態だ。そして俺は先輩がいなくなった世界に興味なんてない。俺が本気だってことはわかるよな?


ふざけるな。
お前にそんな権利があるものか。



……しかし、こうなれば為す術がないのも事実


そう考えた私は返事をする。



いいだろう、その挑発に乗ってやる


鞄に『例の物』を入れた私は、指定された場所に向かう。
流矢が指定した場所は、私と大護さんが通っていた中学の教室だった。
流矢がいつ襲ってくるかわからないので、私は周囲に警戒しながら教室に入る。



……誰もいない。どういうつもりだ?


どうやら今は、この教室は使っていないようだ。
なぜ開いているかはわからないが、流矢が教師をごまかして鍵を借りたのだろう。



……!


そして私は、あることに気づく。
一番後ろにある壁際の席が壁に密着し、隣の席との距離を最大限に開けていることに。



……流矢ぁ!


思わず私は、壁際の机を蹴り倒してしまう。



お前如きが、私と大護さんの間に入り込むんじゃない!


この机の配置は、中学の頃の私と大護さんの再現だ。
……まだ大護さんに心を開いていなかった私の再現だ。
流矢がなぜこれを知っていたかはわからない。だが、奴が私に精神的な攻撃をしようとしているのは明白だった。



何かをして欲しいなら、自分の言葉で相手に伝えないと何も始まらないよ





ぐっ!!


まただ。また私は大護さんの言葉を思い出した。
このままではまずい、奴のペースだ。
その時、私の電話が鳴った。



よお神楽坂、気に入ってもらえたかな?





……随分と悪趣味だな。ますますお前を殺したくなった





ああそうかい。じゃあ、今度はその近くにある公園に来てもらおうか


公園。
言うまでもない。あの公園だ。
大護さんが肉体を失った、あの公園だ。
どこまで奴は大護さんを愚弄するつもりなんだ。
待て、冷静になれ。奴の狙いは私の精神的な消耗だ。
意識を強く保たないと『能力』は使えない。
いざとなったら、『例の物』がある。私は有利に立てる。
内心の怒りを鎮めながら、私は公園に向かった。
例の公園は、川沿いにある。
川沿いには遊歩道があり、ベンチも設置されているので、恋人同士がよく座っていたりする。
そしてその川沿いに設置された手すりにもたれかかる形で、奴は立っていた。



よお神楽坂、俺からのプレゼントは気に入ってもらえたかな?


――私が大護さんにプレゼントしたものと同じジャケットを着て。



ああ、気に入った。お前を苦しませて殺したいくらいにはな


これは私の本心だ。『能力』で伝えるまでも無い。



そうかい。俺もお前にこれ以上振り回されるのはうんざりだ。だから……


奴は私を指さして、言い放つ。



決着をつけようぜ。神楽坂 藍里!


