バケツから、絵の具をキャンバスに思い切りぶちまけた。
飛び散った鮮やかなピンクが、わたしの紺のスカートを汚していく。
――あぁ、母親に怒られるな。
頭のどこかで、わたしの声がする。冷静なもう一人のわたし。
バケツから、絵の具をキャンバスに思い切りぶちまけた。
飛び散った鮮やかなピンクが、わたしの紺のスカートを汚していく。
――あぁ、母親に怒られるな。
頭のどこかで、わたしの声がする。冷静なもう一人のわたし。



――気は済んだ?


後ろから声がかかる。
前島だ。つい先日、引退した。ちなみにわたしも引退した。彼と同じ日に。



気? さあね


済んだとか済んでないとか、そういうこと問題じゃない。
水色の絵の具が入ったバケツを手に持ってそう言った。



ふうん


前島は納得したか、しなかったかわからないような相槌を打つ。
わたしは、キャンバスに絵の具をかけつづける。美術室に、絵の具をぶちまける水音だけが響く。
床もぐちゃぐちゃ。後片付け、面倒だろうなぁと思いつつ、その手は止まらない。



――何で、みんなコトバで説明させたがるんだろうね


カオスになったキャンバスの前で、わたしは呟いた。



ほら、これは思春期特有の苛立ちをあらわしているんです、とかさ――


コトバであらわせないから絵にするのに、コトバで表現されてしまう。



そんなんじゃないのに





前島、これにタイトルをつけるとしたら、あんたは何にする?


わたしは前島の方を向いて問うた。
前島はしばらく考えて、答えた。



無題、だな


END
