今から遡ること46億年。
そして経過すること46億年。
要するに現代。
地球は滅亡の危機に貧していた――
その日、僕は大学の講義を自主休講して
アパートでゴロゴロしていた。



なんだかやる気が出ないなあ。五月病ってやつかなあ。もう六月だけど


僕は横になってボリボリとお菓子を食べていた。
その時――



うわあああ、な、なんだ?





我は、宇宙人ダ





え? 何? 誰? この子、いきなり目の前に現れたんだけど?





我は遥か彼方の、いきなり遠い銀河から地球を視察にやってきダ





いきなり遠い銀河!(仙台弁かな?)





地球が交易するに相応しい惑星か否か、調査するために我は遣わされダ





そしてキミがサンプルモデルとして選ばれダ





……僕がサンプル? ごめん、よくわからないんだけど





簡潔に表現すれば、キミは地球人の代表ダ





僕が……地球人代表?





……なんだかマンガやアニメで聞いたことがあるような話だな。うる星なんとか、とか





まあ、設定としてはそんなに珍しくもないし、たぶんこの子はオタクってやつなんだろうな


最初は驚いたけど、僕は徐々に冷静になってきた。
見れば頬がリンゴのように赤くて顔もけっこうかわいい。
僕は彼女にニコリと笑いかけた。



うん。わかったよ





もう理解したのか。聡明な地球人ダ





要するに君は僕を驚かすために雇われたんだろ? ドッキリとかさ





……ドッキ……リ?





いやー、それにしても凄い手の込みようだよね、そのコスプレ。その青い耳飾りとかよく出来てるね。ちょっと触ってみてもいい?


僕は彼女の頭の先端にチョンと触れた。



――ひゃああンダアアアア!


彼女はいきなり僕の体を突き飛ばした。
僕は壁に後頭部をぶつけた。
視界にチラチラと星が舞った。
が、よく見れば舞っているのは星だけではなかった。



――ええええ?


パソコンや本や机がなぜか宙に浮かび上がっていた。



……コ、ココを触るというのは、非常に、極めて、あってはならないことダ。星間交流の条理に反するダ。許せない。こんな星の人間は存在に値しない。地球は消滅させることに決定ダ!


彼女は僕に向けて手のひらを突き出した。
僕の体も周りと同じように浮かび上がった。



……ト、トリックなんかじゃ、ない!? ち、超能力? オーバーテクノロジー?





ま、まさか……本物の宇宙人!?


僕は今になって事の重大さに気がついた。



ま、待ってくれ! 勘違いしてたんだ! ごめんなさい! 謝ります! ソーリー!


一緒に浮かんでいたパソコンが木っ端微塵になった。



……こ、殺される?





いや、それだけじゃない





彼女は僕のことを地球のサンプルモデルと言っていた





僕のせいで地球全体が危機に陥ってしまうんだ!


どうにかしようとしたが、目に見えない力のせいで
体はピクリとも動かせなかった。



……くっ! ダメかっ!!!


その時、さっきまで僕が食べていた
お菓子の袋が彼女の前へ流れてきた。
中から粉がこぼれ、彼女の鼻先をかすめた。



――へっぷダ!


次の瞬間、力が消えて僕は床の上に落下した。



……いてててて


顔を上げると、彼女は鼻をすすりながら
お菓子の袋を訝しげにつかんでいた。



……これは、なんダ?





え? お菓子だけど





ジャンクフードという概念については既に記憶子(ミーム)を注入して学習している。商品名を問うているんダ!





あ、はい。ハッピーターソです





……ハッピーダーソ





ハッピー『ダ』ーソじゃなくて、ハッピー『タ』ーソね





………………


彼女は僕の話はスルーして、袋をじっと凝視していた。



……あ、もしよかったらどうぞ





いただくダ


彼女はハッピーターソを一つ指でつまみ、
おずおずと口に入れた。
その瞬間、彼女の表情は恍惚となった。



す、凄い。旨い。こ、これはなんダ?





いや、だから商品名はハッピー……





特にこの白い粉ダ。これが大量に付着していると容易に快楽の閾値を突破するダ





ああ。魔法の粉ね





……魔法の粉?





えーっと、つまり、マジカルパウダー?





……って、英語に言い換えたって宇宙人なんだから意味ないじゃん





いいや、問題ない。理解しダ。魔法の粉か。これは良いものダ


彼女はハッピーターソを次々に食べていった。
袋はあっという間に空になってしまった。



……なくなっダ





まあ、また買ってくればいいし。お望みとあらば





このハッピーダーソはメイドイン地球なのか?





え? あー、そうなんじゃないかな。たぶん。僕、あいにく地球から出たことがないから断言はできないけど





量産システムが構築済みなのか!?





コンビニやスーパーで普通に買えるから、まあ、そうなんだろうね。なんなら今から行って買ってきてあげようか?





……地球には、こんなに素晴らしい食べ物が他にもあるのか?





そうだね。ハッピーターソは美味しいし、個人的にも好きだけど、これだけが食べ物ってわけじゃないからね。特に日本は食へのこだわりが半端ないから





………………ッ!?


彼女はしばらく驚いたようにポカンと口を開けていた。
それからおもむろに決心したように頷いた。



地球を消滅させる決定は延期することにしダ





え、本当に?





あくまで延期ダ。地球を存続させるか否か、先送りにしたに過ぎない


理由はよくわからなかったが、地球の危機は去った。
僕はホッと胸をなでおろそうとした。……が、しかし。



その判断をするために、我は今日からここで生活をすることにする





は?





メイドイン地球の食に興味を持った。これから我に美味しい食を提供するように頼むダ。満足できなかった時は、地球は宇宙のダークマターと化すダ





……え、えええ?


かくして地球の命運を担った僕と
宇宙人の同棲生活が始まったのだった――
――次回の登場食品
焼きそばバ●ーン&ペ●ソグ
